表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭霧町奇談  作者: @眠り豆
127/156

126

「……んじゃあ問題だ。水はなにに剋される?」

「えっと、えっと……木だっけ?」

「ハズレ」


あなたは古い日本家屋の一室で、鬼の少年に五行についての教えを受けていた。

五行とは、ファンタジーなどに出てくる魔法属性の東洋版だ。


「わかる『相剋』言ってみろ」

「火は水で消えるから水剋火、木を切るのは金属の斧だから金剋木、その金属は火で溶けるから火剋金……後、土があるんだっけ。あ、土剋水?」

「当たり。おらよ」


大柄で厳つい顔の少年は、学校こそ違うものの、あなたと同い年。

師匠である鬼姫の弟だ。

畳敷きの広い部屋に置かれた長机の下から、彼はお盆を取り出した。

和菓子を載せた皿と、茶碗が置いてある。お盆も食器も、襖の上の欄干の彫刻も、古い歴史を感じさせる図案が描かれていた。


「ん」


茶碗のお茶は冷めていたが、赤い髪の少年が手をかざすと沸騰し始めた。

師匠と同じ赤鬼の彼は、火気を操るのが得意なのだ。


「食えよ」

「ありがとう」


茶碗のお茶をふーふー吹いて、あなたは口にした。

少し熱いけれど、上質な玉露で美味しかった。


「熱過ぎねぇか?」

「大丈夫」


土気色の手を燃やした翌日、あなたは近くのアパートの前で待ち構えていた師匠と目の前の彼と一緒に、悪霊を退治した。


(子どもたちが救われてないって知ったら、わたしが無茶すると思って、前の晩はウソつかれてたんだよね)


その後見習い退魔師としての登録を行なって、実習がない休日はこうして、師匠の弟に五行を教えてもらっている。知らなくても霊力は使えるし悪霊も倒せるが、知っていたほうが便利なのだ。

熱い玉露で喉を湿らせ、あなたはイチゴ大福に手を伸ばした。

コンビニで売っているクリームのものも好きだが、ここで出る白餡も美味しい。

控えめな甘さが、イチゴの甘酸っぱさを引き立てている。

師匠の弟は、獅子のように猛々しい真っ赤な髪をかき混ぜていた。


「……水生木とごっちゃになっちまったのか? 『相生』と『相剋』、一緒に教えるんじゃなかったな」

「あの、聞いてもいい?」

「お、おう。俺ならカノジョいねぇぞ。24時間募集中だ」

「それはどうでもいいです。そんなことじゃなくて、このイチゴ大福、どこで買ってるの? 妖怪専門店?」


彼はあなたたから目を逸らした。


「妖怪専門、っつっちゃあそうかな」

「コイツが作ったのよ」


廊下に面した襖が開いて、師匠が現れた。

初対面のときとは違う、マニッシュなパンツルックだ。人間の友達と会っていたので、角は隠している。


「そうなんですか」

「うるせぇよ、姉貴。合コンどうだった……って、こんなに早くに帰ってきたんだから、聞くまでもねぇってとこか」

「うっさい」


弟の頭をぽかりと殴り、師匠はあなたに微笑みかけた。


「新しい仕事取ってきたわ。ほら、駅裏の廃病院。ホントはC級退魔師数十人募集してたんだけど、あたしらだけで片づけるわよ」

「は、はいっ! 今日もありがとうございました。ごちそうさまです!」


あなたは鬼の少年にお辞儀をして、立ち上がった。彼が手を振ってくる。


「おう、お疲れー」

「なに言ってんの、あんたも来るのよ」

「あんなあ、俺の師匠はタマさんだろ? なんで姉貴と」

「こないだのアパートのときと一緒で、許可なら得てるわよ。うちの可愛い弟子の肉の盾にしてあげるって言ってんだから、喜びな」

「お師匠いいですよ」

「そう? ま、あたしの自慢のあんたなら、こんな県下一のバカ男子校で、ケンカに明け暮れてるようなアホの護衛なんか必要ないか」

「それやめろよ、姉貴。一んとこのチビにまで言われたぞ」

「事実でしょ」

「ケンカしないでください。お師匠も人のこといえませんよ」

「うちの弟子はしっかりものだなあ」


寅はあなたを抱き締めて、頭を撫で始めた。

ずっと妹がほしかったとかで、彼女はあなたを猫可愛がりしている。

もちろん退魔の仕事のときは頼れるプロなので、問題はない。


「バカ姉貴!」


あなたは師匠から引き離された。実は少し苦しく感じていたので、ちょうど良かった。


「なによ」

「角出てたぞ。鬼の怪力で、弟子潰す気かよ。……くそ、仕方ねぇな。ついてってやるよ!」

「ありがと。ねえ、イチゴ大福以外の和菓子も、自分で作ったの?」

「まあな。リクエストあれば、なんでも作ってやるぜ?」


あなたは、笑い合う弟子と弟を見てほくそ笑む師匠に気づいていなかった。

赤鬼姫の『二代目赤鬼姫義妹化計画』は、まだ始まったばかりだ。


<二代目赤鬼姫 プロローグ 若丸>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ