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「ここだ」
若丸が二階の東角部屋のドアノブを掴む。
ぐいっと回したが、鍵でもかかっているのか、びくともしない。
「……悪ぃ、頼む」
「え? わたしが?」
あなたがドアノブを掴んで回すと、鉄の扉は軽々と開いた。
(霊力が強いせい? ううん……)
悪霊の巫女にされかけていたことが影響しているのだろう。
しかし今そのことで落ち込んでいても仕方がない。
あなたと若丸は室内に入った。
畳敷きの和室だ。
若丸が太い腕を伸ばして、あなたを自分の背後に移動させた。
東の土壁一面に鏡が飾られている。
壁に釘を打ち、紐でぶら下げられていた。
土でできた壁は膨らんだり凹んだりしているので、鏡は床に対して垂直ではない。
畳を映した鏡は、窓からの光を反射して反対側の壁を照らし出している。
「この下にガキどもの霊を封じてんだな。それを鏡の魔力で吸い上げて、悪霊のいる西へ向かってるってわけか」
「じゃあ、この鏡を壊せばいいの?」
若丸はニヤリと笑い、片手に拳を打ちつけた。
「おうよ。でも幻っつっても鏡は鏡だからな。破片に気ぃつけろよ?」
「おうよ」
あなたも片手に拳を打ちつけた。
──ふたりで破壊の限りを尽くした後、あなたたちは扉がなかった二階の西へ向かった。
悪霊に霊力を運ぶパイプを破壊したのに、そこには薄汚れた壁しかない。
扉が失われていない部屋があったのは、完全に閉ざしてしまうと霊力を運ぶパイプが機能しないからだ。窓も扉もない部屋では風が動かない。風は木気に属する、激しく動く霊力だ。
「だったらこの部屋もどこかが開いているのよね?」
「土壁は穴だらけだろ」
いくら幻の世界でも、さすがに土壁は壊せない。
あなたは壁を見つめた。ここには扉があるはずだ。
悪霊の結界の中、実体のない幻は姿を真似た現実と影響し合っている。
毎朝毎夕前を通った古いアパートは、一階にも二階にも三室ずつあった。
あなたの記憶が古びた鉄の扉を浮かび上がらせる。
完全な形ではなく、半分透き通って壁に埋もれていた。
実体のない手を伸ばし、さらに希薄な存在のドアノブを握る。
開いたとたん、ぐにゃりと世界が歪んだ。
アパートが消えて、あなたと若丸は暗闇に放り出される。
視線を感じて見回すと、憎悪で顔を歪めた男と目が合った。
腕組みをした男は、片腕の手首から先がない。昨夜、あなたが滅ぼしてしまったのだ。
おおおぉぉぉぉぉっ!!
男が吠えた。
吠えたとしか言いようがない。
憤怒に満ちた叫びは青い蛇の姿になって、あなたに襲いかかった。
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