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──アパート跡地の浄化は無事成功し、あなたたちは見習い退魔師としてのスタートを切った。
昼休み、今日は文化部のミーティングがある曜日で友達がいないので、あなたはお弁当を持って学校の裏庭に向かった。
転校してきた若丸がほかの不良を倒して学校をしめてから、裏庭は彼の縄張りとなっている。運動部のミーティングがある曜日ではないから、一平もいるはずだ。
みんなで結界を張ったので、裏庭には邪悪なものは近づかないし、だれかが邪魔に入ることもない。
天狗はいなかった。
隣の席のあなたは知っている。彼は今日、学校を休んでいた。
家で寝ているかアニメを観ているか、PCに向かっているかは、だれにもわからない。
「あ、やっぱりふたりともいた。混ーぜて」
「おう。一、ちょっと寄れ」
「なんで」
「なんでって、俺らの真ん中に座らせりゃいいじゃねぇか」
「狭くて可哀相だろ。ほら、俺の隣に座れよ」
あなたは礼を言って、一平の隣に座った。
三人で校舎の壁に背中を預け、空を見上げる。
「いい天気だね。週末も晴れるって」
「へっ。晴れたところで俺らは、退魔師の実習だろうが」
「早く終わらせて遊びに行けばいいじゃない」
「そうだな。……サンドイッチ、ひとつ食うか?」
「ありがとう。わたしの唐揚げもどうぞ」
「おかずの交換って、お前ら女子かよ」
「女子だよ」
キュウリと豆腐が挟んであるので、山でもらったものと同じかと思って口に入れたあなたは、とても驚いた。
「チーズ? ううん、やっぱりお豆腐だよね?」
「塩麹を塗って置いておいたんだ」
「美味しい!」
一平の料理の腕はプロ並みだ。
パンの酵母も自作している。山でもらったパンの酵母は、桜の花から作ったという。
「食い過ぎるとデザートが食えないぞ」
若丸がどこからともなく三段の重箱を取り出した。
露骨に呆れた顔で、一平が言う。
「作り過ぎだろ」
「いいんだよ。余ったら舎弟に配るんだから」
若丸は学校のみんなに、『スイーツ番長』と呼ばれている。
「試合に出られなくなったら困る。あんまり暴れるなよ」
「わかってるって」
重箱の中には、季節の花を模った和菓子が詰められていた。
山で食べたまんじゅうに勝るとも劣らない美味しさだろうことは、見ただけでわかる。
一緒にお昼を食べない日でも、ふたりはあなたに差し入れしてくれていた。
(太らせて食べる気……じゃないよね?)
ほんの少し疑いながらも、誘惑に負けて和菓子に手を伸ばしたあなたが、隣のふたりが繰り広げている視線のバトルに気づくのは、まだまだ先のようだ。
<エピローグ 河童VS鬼>