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「あんたって、天然だよな」
「ううう……」
あなたは、一平の言葉に反論できなかった。
悪霊を退治した翌日、教室に訪ねてきた彼に会うまで、同じ学校だと気づいていなかったのだから、なにを言われても仕方がない。
(初めて会ったとき、ジャージに見覚えがあったのにね)
クラスこそ違うものの一平は、あなたと同じ学校のバスケ部の部員だった。
今日は彼の部活ミーティングの後で待ち合わせて、ふたりで同じ場所を目指している。
目的地は、あなたの通学路にある、あのアパートだ。
ほかの妖怪少年たちは先に行っているはずだった。
あれから一週間、アパートは取り壊されて、すでに更地になっている。
しかし建物がなくなっても、悪霊に穢された傷は深い。
このままでは邪悪が集まる呪われた土地になってしまう。
そうならないよう、あなたと妖怪少年たちが向かっているのだ。
退魔師の修行を始めたあなたたちの、初めての実習兼仕事だった。
「あ、ねえ一平くん」
「どうした?」
「思ったんだけど、土剋水でしょ?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「土気のわたしと一緒にいると、水気の一平くん苦しかったりしない?」
「そりゃ苦しいさ」
「そうなの? あの……ごめん。待ってないで、先に行ってたほうが良かったかな」
「どうして?」
距離を取ろうとしたあなたの手を、一平の骨ばった手が掴んだ。
「人間だって妖怪だって、危険なものに惹かれてしまうものだ。俺が苦しいのは、あんたが天然で、丸にも雪にも優しいからだよ」
「それって……?」
「さあな」
一平はあなたの手を離さない。
あなたも振りほどく気はなかった。
ふたりはアパートの跡地へ向かい歩いていく。
あの日もふたりで歩いた。たぶんきっと、これからも──
<一平 修行中END>