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教室から出てきた刃の顔は、あなたの姿を認めて蒼白になった。
「……どうして」
「うちの学校の漫画研究部、ここの漫画研究部と交流があるの。わたしは漫画研究部じゃないんだけど、友達につき合って来たんだ」
「そうですか……」
刃があなたから顔を背ける。
あなたは携帯の時計を確認した。
荷物持ちとして来たので、しばらくしたら友達に合流して、この学校の漫画研究部に借りる資料を運ばなくてはいけない。──資料と称した漫画なのだが。
「刃くん、わたしより年下だったんだ。そういえば自己紹介のとき、お互い年齢や学年を言わなかったもんね。全然気づいてなかった」
「秘密にしてたんです」
「えっと、刃くんが年下でも、これからもちゃんと兄弟子として尊敬するよ?」
刃は唇を尖らせた。頬を赤く染めて俯き、ボソボソと呟く。
「そうじゃなくて……女の子は、年上の男のほうがいいんでしょう?」
「え? ゴメン、よく聞こえなかった」
溜息をつき、刃は顔を上げた。
「なんでもありません。携帯鳴ってますよ」
友達からだった。もう準備ができたらしい。
「それじゃまたね。ここの漫画研究部に借りた資料持って帰るの手伝わなくちゃ。刃くんの顔が見たくて、ちょっとだけ抜けさせてもらったんだ」
歩き始めたあなたに、刃が並ぶ。
「刃くん?」
「手伝います。僕、帰宅部なので、後は帰るだけなんです」
「そうなんだ? ありがとう」
「それと僕、あなたの学校に転校しますから」
「いきなりだね」
「本当は前から話があったんです。霊力の強さに反して経験の浅いあなたには、だれかサポートがいたほうがいいだろうって」
「刃くんはいいの? 学校の友達とか……」
「退魔師のことは秘密にしないといけないので、あんまり親しい友達はいないんです。実はあなたの学校には、退魔師関係の存在がほかにもいて、だから行ったほうが楽しいだろうなって、前から思ってはいたんです。……ただ同じ学校に行ったら、あなたに年下だってバレちゃうから」
「安心して。ちゃんと妹弟子として年下の兄弟子をリスペクトするから!」
「……年齢以前の問題みたいですね」
「なぁに?」
「なんでもないです」
(刃くんが転校してきたら、楽しくなるな。ほかにも退魔師関係のだれかがいるなら、みんなでそういうクラブ作っちゃってもいいかも)
楽しい想像を始めたあなたが、隣を歩く刃の熱い視線に気づくのは、まだまだ先の話になりそうだ。
<エピローグ 刃>