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「刃くんと一緒に、二階へ行ってもいいですか?」
無精髭の男は頭を抱えてしゃがみ込み、わざとらしい溜息を漏らした。
日本刀を持った学生服の少年が微笑む。
「ええ、行きましょう」
「こんなことになるんじゃないかと心配してたんだよ。いいかい? 君たちはふたりとも一人前じゃないんだから、無茶するんじゃないよ。なにか見つけたら、すぐ報告、連絡、相談。ホウ・レン・ソウだよ、ホウ・レン・ソウ!」
刃はイタズラな笑みを浮かべて、珠樹に答えた。
「OK、ダディ」
「刃くん!」
うろたえた様子の珠樹を見て、刃はあはは、と楽しげな笑い声を響かせた。
(もっとおとなしいのかと思ってた)
意外に思いながらも、あなたは彼を追って、啼くように軋む錆びた階段を上がった。
「……あれ?」
ちょうど階段を上がったところが、生前の悪霊がすんでいた西の角部屋のはずなのに、そこには扉がなかった。壁しかない。
隣を見る。真ん中と東の角に、それぞれ一部屋ずつ。全部で二部屋しかない。
「あなたがいても、最後の砦は隠してるんですね」
「え?」
「あ、気づいてなかったんですね。ここは現実じゃありません。あなたと悪霊のつながりを利用して、結界の中に入ってるんです」
「わたしたち実体じゃないってこと? 本当の体は?」
「昨夜のあなたと違って、幽体が実体から抜け出てるわけじゃありません。うーん……実体が霊力化してる感じかな?」
あなたは首を傾げた。よくわからない。
「たぶんあなたなら、ここの隠れた扉も開けられるでしょうけど、まずほかの部屋を調べてみましょう」
「大丈夫なの? 罠……とか」
「ああ、あるでしょうね。でも大丈夫です。僕は結構強いし、悪霊は昨日片手を失って弱体化してます。本拠地を隠すのでいっぱいいっぱいなんじゃないかな」
刃はなんだか機嫌が良かった。
「あ、そうだ。ひとつ聞いてもいいですか?」
本当は質問したいのはこちらのほうだったが、あなたは頷いた。
「あなた、蛇って好きですか?」
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