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悪霊が消えて、一週間が過ぎた。
通学路の途中にあるアパートは、すでに取り壊されて更地になっている。
あなたは日常に戻った。
朝の教室、喧騒の中で昨夜のアニメの感想を語っていた友達が、ふと尋ねてくる。
「そういえばバイト、今日からでしょ? なんのバイトだっけ」
「うーん。掃除、みたいな?」
ずっと悪霊が巣食っていたせいで邪悪なものが集まりやすくなったアパートの跡地を浄化するのだ。
そう、あなたは退魔師の修行をすることになってしまった。
アパート跡地の浄化は、初めての実習兼仕事になる。
退魔師関係のことは口外禁止だ。だから先週の体験も友達には話せなかった。
「大丈夫? 掃除って力仕事でしょ。先週の風邪はもう治ったの?」
「うん。心配してくれてありがとう。バイト代入ったら遊びに行こうね」
「そだね。あ、知ってる? 今日転校生が来るんだって!」
「転校生?」
そのときちょうどチャイムが鳴って、担任が前の扉から教室に入ってきた。
慌てて自分の席に戻っていく友達に小さく手を振って、あなたは教壇に目をやった。
息を呑む。
(えー?)
転校生は男で、この学校の茶色いブレザーをだらしなく着崩した、見るからに不良少年だ。
伸ばした赤い髪を後ろで束ねて、ポニーテイルにしていた。
染めているのではない地毛の赤い髪から、ねじれた角は飛び出していない。
(どうして?)
頭の中で?マークが回っている。
「席は……」
「あの席がいいっす。空いてんだろ?」
転校生が指差したのは、あなたの隣の席だった。
不登校のクラスメイトの席だ。
同じクラスになって何度かは会っているはずなのだけれど、顔も思い出せない。
「いや、その席は」
首を横に振って説明し始めた担任の声は、後ろの扉が開く音でかき消された。
教室中の注目を浴びて、華奢で背の高い少年があなたの隣の席に腰かける。
陶器の人形のように端整な顔をした、白い肌の少年だ。
染めているのか、髪は黒い。
転校生が低い声で凄む。
「雪、どけよ。どうせお前、学校なんか来ねぇだろ」
「それがそうもいかぬのじゃ。大事なカードを人質に取られた」
あなたは、最後のひとりが着ていたジャージに見覚えがあったことを思い出した。
黒地に白と緑の線、あなたも持っているこの学校のジャージだ。
たぶん転校生と隣のクラスメイトは彼のクラスを知っているだろうから、休み時間にでも会いに行こう。
もしかしたら今日の初実習兼仕事は、彼らと一緒なのかもしれない。
思って、あなたは微笑んだ。
狭霧町を舞台に繰り広げられる、退魔師修行中のあなたと妖怪少年たちの物語は、これから始まるのだ──
<TRUE END>
*あなたはトライアングル数をいくつ知っていますか? トライアングル数は全部でみっつです。みっつとも知っているのなら、全部を足した数と同じ番号の章に進んでみましょう。