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004.

あと一話くらいなら今日中に上がるかもしれんとです。

セスが作ったセスの世界に、奴隷制度はない。


神様セスが大昔にそうと決めた、数少ない約束事の一つだから。そして、この世界の人や神様は、セスの約束事は概ね守っているはずなのだ。

お叱り(たたり)が怖いから。


みんなハッピーに生活しよう、かつての楽園へ戻そう、が大目標のはず。


だったら、馬車の目の前に転がってる血塗れの少年は何だ?


大切なところだけしか隠せてない面積の狭い布の服に、ガリガリでボロボロの身体。真っ白な髪の毛はザンバラ、目には感情というものがこもってない。


彼は首に鉄の輪をつけている。魔法がかかっているのか、鈍く光っていた…………奴隷だ。


あ、これ別作品の設定だ……。





「一体何だ?」


そう言わなくても状況は把握していた。

奴隷の長い列が傍に控えていて、少年のすぐ近くに腹がデップリ肥えた蛙顔の男。こいつは身なりがいいから、羽振りもいい……奴隷商人だろう。


馬車はもう、第一都の中には入っていたようだ。


奴隷を移送中、少年がよろめいたかで馬車を遮り、奴隷商人が平謝り。そして少年を鞭打った。そんなとこだろう。

そしてそれを止めようとしたのがベアーズと優男。


ベアーズと優男は基本的に優しい。


子供である俺の側にいたことと、俺の実家が長閑な場所というのも影響したか、奴隷の扱いが分からない……或いは奴隷制度そのものに否定的なのかもしれない。


優男は俺を見て愉快そうに笑っている。勝った、と口走っていたからベアーズと賭けでもしたのだろうか。


ベアーズの方は、背を困ったように丸め、頭をボリボリ搔いていた。


「出ちゃダメって言いませんでしたっけ」

「主は俺だぞ」


いや実際は仮マザーですがな。

まぁその仮マザーがいない以上、二人の命運は俺が握っている、のかもしれない。

ベアーズの反論がないので、呆れたか納得したかのどちらかだろう。


俺は馬車から降りて少年の元へ行く。

傍に並んでいる他の少年少女は視界に入れない。入れてはいけない。こんな大人数は、俺には助けられないのだから……。


奴隷は初めて見た。だから、怪我人にするような態度をとるのが妥当だろう。

商人がゴチャゴチャ言う前に、俺は彼の手を取った。

細くて骨のようだ。そして血生臭い。いたたまれない。


「大丈夫か、お前」

「あ……あ……」


カオナシかお前は。

俺は怪我人を相手にするにはやや乱暴すぎる力で、少年を立たせる。


立つとき痛そうにしていたから、足をやってるのかもしれない。でもそこまで気を回してはやれない。何故なら俺の見た目は五歳児だからだ。


「お前、いくつだ?」

「……八」

「ふぅん。でも背は俺の方が高い。だから俺の方が上な」


ふふん、と笑ってみせる。

よく分からない理屈で周囲を混乱させ、すかさず馬車にぶちこむ。こいつ、身が軽くて良かった……。


中からリョクカの悲鳴が聞こえたが、そんなもんは知らん!


「家まで送ってやる。俺の方が上だからな!」


そう言って、馬車から出てこようとする少年を押しやる。後ろを見ると、ベアーズが何やらすさまじい笑顔で奴隷商人らしき男に金貨を差し出していた。ついでに、俺に向かってウインク。

毛むくじゃらのオッサンウインクでも今は許す。


やっぱり熊さんは、落し物を拾ってくれるくらい優しい。

護衛がそんなにガバガバでいいのかとも思うが、野生の勘とかで危険を嗅ぎ取れるに違いない。ベアー(、、、)だし。


ベアーズは優男と共に馬車へ戻った。といっても、馬車の中へ入った訳じゃない。

ベアーズは、馬を操る優男の隣に座ったのだ。


優男が俺の方を見ている。

俺は頷いて、そして馬車の中へ引っ込んだ。計ったように馬車が進み出す。


そして俺は、馬車の扉をしめて都の喧騒をシャットアウトした。


乳母は苦笑い、リョクカは馬車の隅でプルプル怯え、少年は外に出たがる。

うーん、身元不詳の人間を拉致するのも大変なんだな。


「そんなに押すな、馬車から飛び出るじゃないか」


そう言ってやれば、少年はハッとしたように止まった。


「す、すみません……」


怯えたような表情に、年下への敬語……そういう風に仕込まれたんだろうか。


押し合いへし合いしてる際に、この少年も、金のやり取りがあったところを見ている。護衛役のベアーズが俺に敬語を使ったことも。


彼の今の主は、紛れもなく俺。

八歳ならば、それを理解できないほど幼稚ではないはず。


完全に萎縮してる少年。

俺は椅子をペシペシと叩き、座ることを勧めた。


「怪我人は座れ」

「え、でも」

「座れったら」


電車よりは揺れるが、しかし立ったままでもいけない事はない。たまにはこういうのもいい。


というより、


「尻が痛いんだよ」


おっと、口に出た。うっかりミスに渋い顔をしていると、少年に向かって乳母が優しく微笑んだ。


「お座りなさい」

「でももクソもないからな」


俺も釘を打つ。しかし下手も打った。少年は座ったが、乳母の目が細められる。


「まぁ。セス坊ちゃん、マナーのお勉強はどうしました」

「逃げ回ってるの、知ってるだろうに……」


そんな風にシュンとすれば、乳母はため息を漏らしてこう言うのだ。


「今回だけですよ」


こうやって秘密は山ほど増えてゆく。

仮マザーが厳しい反面、他の人間は、俺に甘いようだ。

とりあえずこの少年は、乳母が何か仕込んでくれるだろう。何を仕込まれるかは知らんが。

相変わらず隅でプルプルのリョクカとも仲良くして欲しいものだ。


俺がバランスゲームよろしくふらふらしていると、声がかかった。


「何も、聞かないんですか」


一向に行き先を尋ねない俺に、少年が痺れを切らしたようだ。

ふむ、どう答えよう。


「おっと。この後の予定を伝えよう……俺とそこのプルプル……じゃなかった、リョクカは教会で洗礼を受ける。ついでにお前も治療してもらう。無料(ただ)だし」

「はい」

「そしたら、お土産の名物カボチャパイを買う」

「はい」

「で、家に帰る」

「はい……はい?」

「俺の家に、帰る。お前も一緒」

「でも、さっき……」

「でももクソもない。別に帰りたいならそう言え、帰してやるから」


でも、そうじゃないだろ?

そう言外に言えば、少年は息を呑んだ。そして静かに頷く。

大正解したけど、これは少し嬉しくないな……。少年には帰る場所がないんだと、そう言っているも同然なのだから。


少年のその目には少し感情が宿っていた。動揺と期待。


よし、決まりだ。

俺は少年に向かって、勢いよく指を差す。


「今日から俺がお前の親分、今日からお前は俺の子分な!」


その言葉に、壊れたようにカクカク頷く少年が心配だ。

なんとか、子分から友達にジョブチェンジできるといいが。



ここに今、最強の信者が爆誕したことを、まだ誰も知らない。

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