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『川遊び』


「じゃあ、次はまた僕が行こう」

 そう僕は切り出した。


 僕のある意味とっておきのものだ。

 ちょうど夏でよく見られることだしね。


――※※――――※※――――※※――


 僕はみんなが知っている通りに、東京都民なんだけど……、みんなと話して驚くことがやっぱりあるんだよね。

 例えば千葉県民のマックスコーヒーとか……さ。

 地域ものはもうホントね。


 千葉県の空港から東京の上野までを結ぶ『最強』の京成線とか、実物みたことがなかったけど、実際の凄さをこう、クラスメイトから聞くと「うおおおおお、すげえええええ」とか言っちゃうよね。


 そんな中でもやっぱり驚くものが、川の中で遊べるというもの。

 これにはね、もう驚くしかないね。

 みんなはウチの高校の近く小学校と中学校から来ているわけじゃないから、知らないだろうけど、実を言うとウチの近所って川遊び出来ないんだよね。

 だから、学校で川に裸足突っ込んでフナとか蛙捕まえるとか、タニシを見つけるとかそういった授業は無いし、川は数あれど入ろうとすると大人から説教されるぐらいに、川遊びが出来ない。


「何故か」って言いたそうにしているね、みんな。

 いや、別にお化けが出るとかそうじゃないんだ。


 いや、お化けだと本当にいいんだけど。

 そうじゃない。


 当時はニュースなんかには全くなっていない。

 地域の新聞にちょろっと出ただけなんだけど……さ。


 ちょうど……、うん。

 ちょうど、出ちゃったんだよ。


芽殖孤虫(がしょくこちゅう)』に寄生されて幼虫移行症を発症してしまった人が……さ。


『芽殖孤虫』っていうのは、こんなにも医学や生物学が発展してきているのに、未だ致死率100%の寄生虫症で、

 その手の書籍とか曰く、人の皮膚や眼球はもちろん肉や内臓にも多く現れて、一度(ひとたび)感染すれば、皮膚にミミズ腫れなんかを気にする余裕はなく、肉は痛みと痒みがあって、内臓は出血する。


 もちろん、肉だけじゃない。

 ざわざわと内臓はすべてその蟲に冒され、ほんの四方が5cm程度の部分に1匹2匹じゃなくて、2桁匹。

 そのどれもが痛みと痒みを作り出す。

 幼虫移行ってことは……つまり、痛みと痒みを引き起こしながら移行……まぁ移動だね。

 それをする訳だから、皮膚から肉へ、肉から骨へ。


 骨から内臓へと冒し、その間痛みを引き起こしながら身体を冒す。

 最後には脳へ進入し、脳を冒す。

 痛みと痒みを伴いながら。


 この蟲の怖いところは、一度感染すると爆発的に増殖()える。

 よって、手術で一匹一匹除去なんて出来ない。

 心臓も脳も冒されているかもしれない。

 全部除去できた可能性があっても、一匹残してしまったら、そこからまた増殖える。


 で、これが……書籍によると年単位で続いて死に至る……らしい。


 ……つまり、自分の身体が痛くて痒くて、身体が蟲だらけになって、あんなに綺麗で女性だったら陶磁器のように白くて自慢の肌、男性だったら筋肉質で男らしい身体だったとしても……。


 ベッドに横たわる自分の身体には、ミミズ腫れのような赤い曲線を描く線が、脚と腕ならまだしも、下半身と上半身、首周りに現れる。

 更に言えば除去できず、日に日に増殖えていき、且つ目の前でミミズが蠢く。

 それを痛みと痒みに耐えながら、何度あげたか分からない悲鳴と嗚咽(おえつ)を毎日自慢だった身体を見る度に。


 それと内臓が出血する……ということで、腸とか腎臓とかもう何にでも穴が開けられ、激痛があり、肺ももちろん穴が空くなら……血反吐を吐く。

 身体を冒すわけだから、身体状態と機能も大きく変化させる。

 身体の至るところに腫瘍が出来て、中にはたくさんの蟲がいることが手に取るように分かるようになり、脳を冒されれば、言語能力という話す言葉が出なくなる。

 いや、まともに考える思考能力がなくなり、"自分"というものが消える。


 身体は麻痺(まひ)していき、血の巡りが悪くなり壊死していく。

 呼吸困難、知覚麻痺その他諸々。


 治癒は認められず、血反吐を吐き、痛みと痒みを耐え、ミミズが蠢き、悲鳴と嗚咽を漏らす。

 のは、最初の方で、段々と身体中に腫瘍ができて、ぶくぶくと太くなり蟲も蠢き、血反吐は吐き散らし、身体の痛みも何も感じられなくなったと思えば、医者が何か言っているけど、何を言っているかわからなくなり、呼吸をするのにも痛かったような痛くないような、そもそもとしてお腹減っているような、お腹減っていないような。

 お腹減っているような気がするから、ご飯ってなんだっけ。

 そもそもお腹ってなんだっけ。


 いや、え。

 たべ……ってなに?

 これなんだっけ。

 

 だれもしらない。

 だれってなんだっけ。


 なんだっけってなんだっけ。


 なんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけ。


 なんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけなんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけなんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけなんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけなんだっけってなんだっけってなんだっけってなんだっけ……――


 ……え、あ、



――※※――――※※――――※※――


「ということで、川遊び禁止になったんだ」


 みんなそわそわして、腕とかを掻いている。

 どうやら、無意識の内に痒みが来たみたいだ。


「ま、まぁ大丈夫だよ。その一例のあとから、今に至るまでなぁんにも起きていないし」

「で、でもだな」


 まったく、みんな心配症だな。

「大丈夫だって。第一、川で遊んでいてすぐ発症するとかだったら全国的に一杯出てくるでしょ。それがないんだから、大丈夫大丈夫」

「いや。う、うーん」


「あははは、大丈夫大丈夫」

「ねえねえ、あのさ」

「うん、なに?」

「潜伏期間とか……あるの? ってボクは思っちゃったりするんだけど」


「どうだろうね。年単位らしいし、潜伏期間も年単位じゃない?」

「………………、」

「ほかには?」

「じゃあ、私」


「うん」

「掛かった人たち……どうした……の?」

 え、そりゃあもちろん。

 そう言わんばかりに、


「自殺、したよ。一家全員」


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