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旅行

――。


――※※――――※※――――※※――


 今日は男2人、女2人の計4人集まっての、旅行。

 そう、僕たちはこれからこの照り付く、まさに真夏の中旅行に出かける。


 名目は卒業旅行。

 場所は新潟。

 大学附属の高校であるが故にみんなお祭り気分だ。

 なにせ思春期の男女が集まるわけだから、みんな考えることは一緒。

 期待していることも一緒。


 友だちと僕がまず旅行を企画したところで、同じクラスの女の子も同じようなものを企画……してたので、僕が引き込んだ。

 引き込んだときは全くその気はなかったけれども、彼女たちを見ている内にムラムラしてきたのは仕方がない……と、思いたい。

 夏休み前の期末試験もどうにか終わった。

 ちょっとだけ、いやかなり危なかった。

 というのも、クラスの女の子が悶々と妄想の中に、出たり引っ込んだりを繰り返していて、彼女のいい匂いとか。もうもうもうもう……。


 とにかく、そういう訳で。

 期末も終わって、夏休み前の注意事項も聞き流して。

 待ちに待ったのがこの日。


 使い捨てだけどカメラも持った。

 駅からは遠いとは聞くけども、山の中にあるホテルではないようだから、蚊対策に長袖は持ってこない。

 直射日光用に帽子も持った。

 忘れ物はない。


「行ってきまーす!」


 そう言って僕は家を出た。


――※※――――※※――――※※――


 新潟までの移動は上野駅から出てる新幹線を使う。

 野郎だけの時は「ローカルを乗り継いで行こうぜ」とギャハハハと笑いながら決めたもんだが、女の子も来るということになったので一転して、新幹線を使うことになった。

 もちろん、満場一致で、だ。

「夜が楽しみだな!」と言ったのは、僕か、それとも友人か。


 もし友人が言ったとしても、正直僕もそう思う。

 本当に夜が楽しみだ、きっと。

 今日のホテルで2組のカップルが出来る。

 出来たら、この上野駅にある動物園でデートにしけこむか。


 それとも、押上駅の近くのとうきょうスカイツリー駅の水族館か。

 どちらもイケる。

 そうすれば、明日の夜で二回戦だ。


 などと、妄想しながら早く着すぎたせいか、まだ誰も来ていなかった。

 ということで、上野駅で友人と女の子たちを待つ。

 こういうときに便利なのは、エキナカ。

 上野駅で言えば、エキュートか。


 そのエキュートで中々に美味しそうな喫茶店を見つけ中に入った。

 というのも、ただ単にやたらと列を為しているからというべきか。

 そこで僕は簡単に卵を焼いただけのスクランブルエッグに、これまたいい匂いのソーセージを注文。

 しばらく待って出てきたのは、想像通りに美味しそうなたまご色のスクランブルエッグに、網目の焦げ目がついた茶色いソーセージ、そして皮は焼いて固くも、中はふわっとしているパンにマーガリンではなくて、バターをこれでもかと塗りたくり舌鼓を打っているところで、友人からメールが飛んできた。


 内容は「いまどこ?」だ。

 優雅に朝食を取っていることを伝えたところ、みんなが店に来ることとなった。

 生クリームの味が微かに感じるスクランブルエッグの味に感動を憶えている内に、友人と女の子たちが来た。

 僕のなんとなしの幸せそうな顔に、感化されたらしくみんなでこの店で朝食を取ることになった。


――※※――――※※――――※※――



 新幹線の中ではお互いスマホを出して、ソーシャルゲーム……というのは味気ない。

 というか、そんなのだったら一人旅でも出来る。


 であれば、4人で出来るゲームをしたい。

 という訳で提案したのは『山手線ゲーム』だ。

 先日従兄弟に聞いておいて良かった。

 一昔前の遊びだけど、こういうときに充分楽しめる。


――※※――――※※――――※※――


 新潟に着いて早速観光地へ向かう。


 行き先は蒲原(かんばら)神社。

 別に『縁結び』とかそういうものを期待するものではない。

 ただの旅の無事と……、パワースポット的な意味で最初に伺った、程度だ。

 これが意外にもウケた。


 早速パシャパシャとスマホで写真撮ったりした。

 祭りとかの時期はとっくに過ぎているけれど、涼しく閑静な場所で新幹線や電車の音も聞こえず、中々落ち着けたと思う。


 次はちょっと電車に乗って佐潟(さかた)公園へ行く。

 だいぶ遠いらしいが、いわゆるラムサール条約という国際条約で保全されている……ということであればあっちは観光地としてのノウハウがあって、それをウリにしてお金が落ちる。

 僕たちは楽しめる。

 お互いwin-winの関係だ。


 おっと、その前にお昼を食べようか。

 新潟駅に着いた時点でお昼間近だったし。


――※※――――※※――――※※――


 佐潟公園について、ひと通り写真を撮ったりして楽しんだあとは、ギリギリいけるかも……ということで、弥彦山に行った。

 Wikipedia知識であるが弥彦山はなんと、東京の高尾山よりも高いとか。


 東京都のゴミゴミした都と思われがちだし、実際そのとおりではあるけれど、郊外となればまだまだ自然はある。

 そしてその自然は某車屋の冊子に載ってしまって以来、手入れがあり、中には火をつけたり自然を害そうとする不届き者がいたりするけれど、秋葉原とか渋谷とか人の多さや電気製品とかファッションだけじゃない。

 観光名所が出来た、またはあるというのは都民として嬉しい限りだとおもう。



 巡っていたところで、とうとう17時、いや夕方5時を回ってしまったので田上駅に向かうことにした。

 というのも、田上駅近くに雰囲気がよく出ている旅館の予約を取ったからだ。

 ちょっと高かったけれど、雰囲気あるし女の子と致せるかもしれないし、そのためのシチュエーションは作るべきだし、それに『卒業旅行』だ。

 色んなものを卒業するための旅行。


 ちょっとぐらい奮発してもバチは当たらない……はず。


 そして僕らはその旅館にチェックインした。


――※※――――※※――――※※――


 チェックインをしてからは、特段やることもないのでちょっと空きっ腹だったけれど、お湯を見に行った。

 当然だけど男女で分かれているようだ。

 先に入るか、それとも夕食を待つか。

 夕食自体は、あと1時間は掛かるそう。


 女の子たちが「食べる前に、汗を流したい」ということだったので、さらっと入ることになった。

 確かに真夏に山を登ったお陰で、汗でドロドロしている。

 それに夕食は雰囲気の出ている釜飯とか、籠とか船に載った料理と聞く。

 どうせなら私服ではなくて、さっぱりした身体にゆったりとして涼しい浴衣を着て食べたい。


 だから、入ることにした。


――※※――――※※――――※※――


 身体を洗って透明なお湯に浸かったら、余りの気持ちよさに僕と友人は湯船のなかで寝てしまったようだ。

 慌てて湯船から出て、脱衣場に出て時計をみたところ、幸い集合時間まであと10分ほど残ってた。

 とはいっても、たったの10分など入り直すなんて時間が足りなさすぎる。

 だから、浴衣に着替えた。


 持ってきていた新しいトランクスが心地いい。

 汗ドロドロのスポーツパンツとポロシャツは、コンビニ袋にポイして手持ち耳を結んで片手に持つ。

 そうこうしている内に友人も浴衣に着替え終わったようなので、一緒にコーヒー牛乳の瓶を買って片手を腰に置いて、ぐいっと一気飲み。

 こういう飲み方も従兄弟から教えて貰ったことだ。


 流石、従兄弟のおじさん、いやお兄さんだ。

 美味しい飲み方をよく知っている。


 コーヒー牛乳を飲み終わって瓶を専用の設置場所に置き捨てたところで、女の子たちが来た。

 お風呂から出たばかりの女の子って本当に色っぽい。


 その色っぽい女の子たちと、今日僕は卒業するかもしれない……と思うと、胸の鼓動は早鐘を打つかのように忙しなく鳴り響いた。


――※※――――※※――――※※――


 夕食は彩り豊かなものだ。

 もう何を言えばいいのか、分からない。

 目の前と隣に座る、浴衣姿の女の子の匂いにくらくらする、けれども、いやそれよりも目の前の彩りにも目が奪われる。

 新潟は海と山が近い。


 だから、海の料理と山の料理が楽しめる……と、聞いていた。

 聞いていても、これには感動をせざるを得ない。

 これは、凄い。

 仲居さんの話がほとんど分からないけれど、彩りの暴力が目を奪う。


 早く食べたい。

 だから。

 仲居さんが部屋から出て行ったとき、僕たちは食べた。



――※※――――※※――――※※――


 味がほとんど分からなかったけれど、とにかく美味しかった。

 東京でお刺身とか、そういった料亭とかはもちろん行ったことがある。

 従姉妹の結婚式とか、そういうので。


 その料亭以上に美味しい

 と、言っても料亭に行って食べたのは、味も分からないであろう小学生の頃に行ったとかそんなものだったけれど、

 記憶の中にある味なんかよりも、とても直接味覚と脳に美味しいと言ってしまえるほどの味がここにあった。


 来てよかった。


――※※――――※※――――※※――


 美味しいものを食べたところで、汗がまたふきだしてきた。

 また、満場一致でお風呂に入ることになった。


 今日、僕たちは卒業します。


――※※――――※※――――※※――


 お風呂から上がって醤油とか食べ物の匂いを落としてスッキリしたところで、網戸をして窓を開ける。

 外の風がとても気持ち良い。


 お風呂から出たところでお布団四つ並んでいた。

 それもご丁寧に二組ごとに離れている。

 どうやら仲居さんがやっていったようだ。

 確かに「お布団敷きます?」と聞いてきていた。


 それに対して「お願いします」とも言った。

 だからって、ご丁寧に二組とは。


 ドキドキと早鐘を打つこの心臓。

 さっぱりした筈なのに汗がまた出てきた。

 誰かのごくりと生唾を飲み込む音。


 熱く身体が火照(ほて)ていて、外からの風も感じない。

 そして、目が合ったクラスの女の子と僕は。


――※※――――※※――――※※――


 隣同士になっても、眠れない。

 目がギンギンで、隣の女の子の息遣いも聞こえる中で寝れるわけない。

 それに汗がだくだくだ。

 正直に言って気持ち悪い。


 すると、隣の女の子が

「眠れないね」と微笑んだ。

 僕は、「そうだね」と応えた。


「暑いからね」と女の子に云ったら。

「私も」と女の子は云った。


 だから、

「涼しくなれるように」と女の子は云って

 と、僕は聞き返すように「涼しくなれるように?」


「隣の一組と一緒に、さ」

「一緒に?」


「怖い話をしよう?」と彼女は云った。






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