鬼の存在
少女は咲狂でもなく、死音でもなく、絶無の状態で目を覚ました。
「ひっ………あ…」
か細い悲鳴が絶望から漏れる。
初めて見た屍。
それは無惨にも切り刻まれ、内臓はぐちゃぐちゃに踏み潰され、血は至る所に飛び散っていた。
そんな状態で悲鳴を上げない者は、精神異常者か、馴れている者だろう。
無論、それにまだ馴れていない絶望が悲鳴を上げてもなんらおかしくない。
『あらぁ?咲狂、跡かたずけやってないじゃない。あ、主大丈夫ですかぁ?』
「だ、誰?」
『うふふふ……私は、楽観の感情、夢喰よ」
「ゆ、夢喰……?」
『うふふふ。私はそんなに強く無いけど、屍を消すぐらいなら出来るわ』
「で、でもそれじゃあ……この人が浮かばれない……」
『でもねぇ、そんな事言ってられないのが、今の状態なのよね。代わるからちょっとよけなさい』
絶無の意識は残ったまま、夢喰と代わった。
「さぁて、この死体が無かった事に、と」
つらつらと、何処からか出した和紙に筆で書いている。
すると、その書いた言葉通りに死体は、この場から消え去った。
「うふふふ……これで大丈夫よ」
夢喰はくすくすとおかしげに笑うと、絶無と交代した。
「っ……はぁ、はぁ……何あれ…あれが……私の中………?」
何を見たのだろうか、息は荒く、確実に現実ではないものを見たようの感じだ。
『すみません、主。夢喰にはちゃんと言っておきますから。あまり気分を害さないで下さい』
「ごめんなさい。でも……あれは一体?」
『あれは……というよりも、あの子は鬼、乱楼鬼です』
「乱楼鬼……。あの子……鬼だったのね……」
『主のその力は、全て乱楼鬼の力、と言っても過言ではありません。乱楼鬼は最強の鬼と呼ばれています』
「最強の鬼?」
『はい。しかし、最強の鬼と言っても数多おり、その内の一体と思われがちですが、乱楼鬼はその鬼の中でも、桁違いの強さを持っております。要するに、正に最強の鬼と言う言葉が似合わない鬼です』
「何故似合わないの?」
『力は強けれども、なんとも精神の弱い方だったそうです。ただ、最強と言われる所以では、それなりの努力家と言ってもおかしくありません。100年で修行を終わらせるのが普通だとしましょう。しかし、乱楼鬼はその修行を1000年で終わらせたのです。側からみれば遅く感じますが、乱楼鬼は基礎の基礎を何も考えずとも、完璧にこなす程の努力をしていたのです。それを知った鬼達は嘲笑う事を止めたそうです』
「う〜ん……あんまり喋って欲しくないんだよね、そういう事」
絶無はばっと声のする方に振り向く。
そこには凄く憂鬱そうな少年がたっていた。