「全部話すよ。隠してた事全部」
明葉の覚悟。
月曜日。午後六時。新宿。
「雪菜ー! カッコ良かったよー!」
はぎゅー!
劇団小宇宙『誰がそれを言ったのか』初日
公演を終えて楽屋に戻ってきた雪菜を出迎えたのは満面の笑みの明葉だった。
「スゴかった! ホントに幽霊みたいだった!」
「ハイハイ。ちょっと静かにしようね。ていうか出る?」
「うんうん。出よ出よ! すっごいゲストが来てるんだから!」
ぐいぐいと腕を引っ張る明葉。
「良いわよ。行ってらっしゃい。反省会に遅れないようにね」
「すいません」
先輩俳優に礼をして楽屋を出る。
「こっちですよ。ふふふ、ビックリしますよ」
明葉は劇場を抜けて細い路地裏の方へと引っ張っていく。
「連れて来ましたよー」
「お久しぶり」
壁に凭れてこちらを見ていたのはサングラスをした黒髪の美女――いや、それはウィッグだろう。
「良い舞台だったわよ」
外したサングラスの下の目が街灯の光を受けて紅に光る。
「私も紹介した甲斐があったというものだわ」
偽りの黒髪は外され世にも稀な深紅の髪が流れ落ちる。
夜の光の中で悠然と微笑んでいるのは――仁ノ宮愛だった。
「見に来て下さったんですか!?」
「私が紹介した子だもの。見に来ない訳には行かないでしょう?」
人通りの少ない路地裏で女子三人で密会というのは危ない気もするが、今や時の人となった仁ノ宮愛はお忍びで出歩くのにも苦労する身だ。
「行きましょ。一所に留まってるのもまずいし」
「例の店ですか?」
「ええ」
そう言ってくるりと背を向けて仁ノ宮愛は歩き出した。
「この先に仁ノ宮さん御用達のお店があるからそっち行くよ。……驚かないでね? スゴいお店だから」
そう言われて手を引かれて着いたのは。
フカフカの絨毯。薄暗い店内。当然のように個室。
グラス一つとっても数万はする代物であることは明らかで。
中学生組、明らかに場違いであった。
「とりあえず、公演の無事を祈って乾杯」
「カンパーイ」
「……か、乾杯」
オレンジジュースである。
これをただのオレンジジュースと呼んでも良いならであるが。
一杯いくらかなど雪菜は想像もしたくない。
「じゃ、私ちょっと行ってくるから」
唐突に仁ノ宮さんはそう言ってグラスを置いた。
「連合の方ですよね? 都市の方じゃないですよね?」
「もちろん。危なくなったらすぐ帰ってくるから」
何の話だろう。雪菜には分からない。
それでも――あんなに切羽詰まった明葉の顔を見るのは初めてだった。
「じゃ、後お願い」
「くれぐれも気を付けて!」
明葉がそう言った瞬間仁ノ宮さんの体から力が抜けた。
それを明葉が支えソファに座らせる。
意識は――無いようだった。
「ちょ、大丈夫? 救急車呼んだ方が良いんじゃ……」
「違うの。病気じゃないの」
ひどく思い詰めた顔で明葉が言う。
「全部話すよ。隠してた事全部」
ちなみに『誰がそれを言ったのか』はミステリーです。
雪菜は第一の被害者の幽霊役。
犯人を知りつつ生者たちの混乱を傍観するちょっと難しい役どころです。




