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「誠意だったら見せられると思うぜ。」

玉子の焼ける香りで時田空は目を覚ました。

「……ここは」

ぼんやりした頭で辺りを見回すと、昨夜の記憶が甦ってきて赤面した。

完全に勢いで流された。反省である。

「飯つくってんのか……ってまだ五時半じゃねえか!」

「起こしちゃったー?」

キッチンからエプロンした明葉が顔を覗かせる。

新妻みたいだと思ってしまったことに自己嫌悪を覚えた。

先走りすぎだ。

「玉子半熟で良い? パンはマーガリンしかないけど大丈夫? コーヒーとかインスタントしかないけどどうする?」

「玉子は半熟で結構。パンは両面焼きで頼む。コーヒーにはミルク入れてくれ。あと着替えるから脱衣場借りるぞ」

「わかったー」

そう言ってキッチンに戻る明葉を見て随分と馴染んだものだなあと思う。

昨日はじめて会ったとは思えない。

幼馴染みが朝食作ってくれるとかこんな感じなんだろうか。

思わずニヤけてしまう。

ラノベかっつーの。

着替えると言っても大した事はない下をハーフパンツからジーンズに変えるだけだ。上は夜も昼もTシャツ一枚きりだったし上着はホテルに置いてある。下着を頻繁に変える習慣は時田空には無かった。

さっさと済ませて脱衣場からでる。

ダイニングテーブルには既に朝食が用意されていた。

「玉子とか奮発しちゃった。いつもはパンだけなんだ」

ニコニコと笑いながらそんなことを言う明葉。

……可愛いじゃねえか。畜生。

「ふーん。で、どうする。俺は『責任とって付き合って!』とか泣かれるかと思ってた訳よ」

冗談めかして探りを入れる。明葉はどう思っているのか。

「責任は別の形でとってもらうから。それとあなたの身辺は調べさせてもらいます」

帰ってきたのはビジネスライクな答え。

打ち解けたようでも警戒は怠らないって訳か……。

良いね。そう言うの。好みだ。

「そりゃ構わねえぜ。ああ、言っとくけど俺が仙台行ったのは高校まででそれまでは東京だったから」

調べるならこっちの方がやり易い訳といって目玉焼きに塩を振りかける。

時田空。目玉焼きには塩派であった。

「ごめんね。一晩一緒に過ごしといてなんなんだけど、やっぱりそれだけで信用する訳にはいかないから」

「構わねえ。想定の内だ。それよりこっちからのお願いは良い訳? だったら頼みがある訳なんだけど」

頼み?

対面型キッチンの向こう側で安部明葉は振り向いた。

虹色の閃光を振り撒いて髪が揺れる。

「情報が欲しい。向こう側の情報が。神聖王国でも魔法鉄鋼王国でも学術科学都市でも構わない。とにかく情報をくれ」

「……それは勇者になるってこと?」

目玉焼きの黄身を潰して空は答える。

「そう。だから少しでも情報が欲しい訳。それも出来れば洗いざらい。もちろんこっちの持ってる情報も出す。やりたいのは情報共有な訳」

暫しの沈黙。

パタパタと明葉が冷蔵庫を開け閉めする音だけが響く。

「……なに作ってる訳?」

「今日のお弁当。うちの学校給食ないから」

「ふーん。どれどれ……」

アルミ製の味もそっけもない弁当箱の半分にご飯が敷き詰められている。上には塩昆布。反対側には野菜の煮付けと佃煮。

全体的に茶色い上にたんぱく質が見当たらない弁当だった。

「……お前ちょっとは肉食えよ。だから出るとこ出ないんだよ」

「そんな贅沢は出来ません」

肉食うのが贅沢とか何時の時代の人だ。

「お前、ちゃんと親に面倒見てもらってる訳だよな? ネグレクトとかじゃないよな?」

「――情報共有という話なら流石にただというわけにはいきません。それなりの誠意を見せていただかないと」

露骨に意図的に話を逸らされた。

ふむ、この話はタブーな訳か……。

「誠意だったら見せられると思うぜ。学術科学都市の拷問に関しては俺が――正確には農業連合がどうにか出来ると思う」

「農業連合が……?」

焼けたトーストにマーガリンを塗り空はかぶりついた。

「学術科学都市の食糧の九割は農業連合産だからそっちから圧力がかけられる訳」

学術科学都市。典型的な消費型都市である。食物自給率は壊滅的だ。

「流石に……」

パタパタと弁当を団扇で扇ぎながら明葉は言う。

「その話は先払いじゃないと受けられない、かな」

「想定内だ。それで良い」

時田空はコーヒーにだばだばとミルクを入れた。

もはやコーヒーの面影のほとんど無くなったミルクを飲む。

「じゃあ、土曜日に学術科学都市に行くんで日曜日にメールしますね。添付ファイルにまとめておきますので」

「ーん………」

時田空はゆっくりとミルクのカップを傾ける。微かに漂うコーヒーの香りを楽しんで暫し、考える。

「……いや、それじゃ遅いな。日曜日じゃなくて土曜日、召喚が終わったらすぐにメールしてくれ。源氏様に相談するより早くってのが望ましい訳。それと念のためファイルは圧縮してパスワードかけといてもらえる?」

「良いですけど……、パスワードは?」

「TOKITASECで頼む。覚えられるよな?」

パタリと団扇を扇ぐ手を止めて明葉はお弁当箱に蓋をする。大判のハンカチでくるんでその上から輪ゴムをかける。

頭はさっきの話を反芻していた。

明葉は暴力には折れたくない質だが別にマゾヒストと言うわけではない。拷問がなくなるならその方が良い。それに拷問が無くなれば光さんとも和解できるだろう。根本の所は何も解決していないのだがその辺りを棚上げできるぐらいには光さんは大人である。

メリットはある。

それが本当ならば、の話だが。

報酬を急いだことが気にかかる。

「拷問の停止ってのは一回だけ? それとも継続的に?」

「正確には継続的な待遇改善の要求って形にするつもり。だから精神的な嫌がらせとかも出来ないはず。正確な所は二国間の話だから断言は出来ないけど俺はそう要求する訳」

「……情報の範囲は私の知ってる限りで良いの?」

「いいや」

時田空は首を振る。

「源氏様が握ってる情報が欲しい。紫の上は後回しで良い。源氏様の頭ん中が分かってこそ意味がある訳」

「光さんが私に隠してることを知りたいってこと?」

ミルクのカップ飲み干して時田空は安部明葉を指さした。

「まさにそれだ。それがもらえないなら、この話は無かったことになる訳だ。即答はできないだろうから金曜までにメールしてくれ」

「……ふうん。良いよ。分かった」

明葉は頷く。

「ごちそうさま。俺は仙台戻るからここで失礼する訳。じゃ、メール楽しみにしてるから」

「うん、よろしくね」

じゃあねと笑って手を振って二人は別れた。


果たして空は誠意を見せることは出来るのか!?

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