「……多分、辞めない」
「…………………………………えええええええええええええええええええっ!!!!!時田さん十六歳なんですか!」
「あー、まあ僕も好きで背が低い訳ではないのでそこまで驚かれると心外なんですが?」
いや、他に何を驚けというのか。
このジャニーズJr.にいても何もおかしく無さそうな美少年がまさかの高校一年生。ビックリである。
「お疑いなら――はい、これ学生証です。なんならコピー取ってくれても良いですよ」
渡されたのは鍵高校の学生証。鍵高校。仙台にある全国区の進学校だ。
確かに時田空の名前と生年月日、顔写真がついている。
本物……のようだ。
「……コピーは取らせて下さい。悪用はしませんので。……それと別に敬語じゃなくても良いですよ。年上なんだし」
「と言って口調を崩すともう姉弟にしか見えない罠ですね……。いや、まあ、崩すんだけど。あ、ちょっと飲みもん取ってくるわ」
日曜日。午後九時。
二人はとりあえず手近なファミレスに入った。
時田さんが食事がしたいと言ったのである。
奢ると言われてしまえば着の身着のままの明葉は従わざるを得ない。
とりあえず、席についてドリンクバー二つとトリプルミックスグリルAセットとパンケーキを頼んだ。
明葉はドリンクバーだけで良いと言ったのだが時田さんはドリンクバーを単品で頼むと割高になることに並々ならぬこだわりがあるようでそのまま押しきられてしまった。
そして、現在食事中である。
それにしても……勇者か。
これで三人目である。
「お待たせ~。あ、明葉ちゃんの分も取ってきたけど、烏龍茶で良いよね?」
「……はい、ありがとうございます」
明葉ちゃん、か。随分と馴れ馴れしい。
しかし、不思議と不快ではなかった。
「で、そっちの様子について聞かせて欲しい。勿論、話せる範囲で構わないんだけど」
「……時田さんは勇者なんですよね?」
「うーん。正確にはまだそうじゃないんだよなあ」
時田さんは牛ステーキをカットしながら言う。
「最終的な回答は今週末――金曜日にすることになってる。流石にそんなこと即断出来ないからね。一ヶ月猶予期間をもらった訳よ」
「……一ヶ月」
即断した明葉からしてみれば慎重すぎる気がする。
「一番気になったのは他の勇者のことでね。同業者の待遇が分かれば色々有利になるし、連携して動ければそうそうひどい目に合わないでしょってことで。それで明葉ちゃん探してた訳よ」
時田さん慎重派だ。
頭のいい人は考えることが違う。
「……どうやって私のことを見つけたんですか」
「紫の上を手にいれた源氏様が血相変えて飛び込んでった家に安部って表札があれば気付く訳よ。ああ、この子が紫の上のご同業だなと」
どうやら。
仁ノ宮さんと光さんを追いかけ回していたらしい。
そうしたら光さんが明葉のうちに来たと。
普段だったら気付いて撒いてこれたはずだが今日の光さんは普通じゃなかった。
「で、どしたの。なんかあった訳? 紫の上も勇者なんだろ?」
「いや、仁ノ宮さんはもう引退してて、それで私が代わりに情報収集がてら勇者を……」
「源氏様に言われて?」
こっくり頷いた明葉を見てステーキを口へと運ぶ時田さん。
そのまま咀嚼しながら考え込んで――飲み込んでから言う。
「もしかして――源氏様のこと好きな訳?」
「……………………………うん」
はあ、と時田さんは天井を仰ぐ。
「源氏様、マジ鬼畜じゃねえか……。自分慕ってる中学生に嫁の身代わりとかマジありえん」
「……大したことじゃないよ」
「いやいや、そこは怒って良い訳よ。マジで。で、なんか喧嘩でもしたんだろ? 辞めたいとでも言った訳?」
時田さんはステーキを頬張る。
結構食べるスピードが速い。
「……いや、光さんが危ないからもう辞めろって言って、私が嫌ですって言って……」
「はいそこでストーップ!」
肉の脂で虹色に光るステーキナイフが明葉の鼻先に突きつけられた。
時田さんの険しい顔が歪んでナイフに写り込む。
「まず、向こうでなんか危ないことがあった訳ね。で源氏様は辞めろと言った。でも明葉ちゃんは辞めないと言った。――聞きたいことは二つだよ。向こうで何があったのか。なんで辞めたくないと思うのか。話して貰えるかな?」
明葉はぽつりぽつりと話し出した。
光さんとの出会い。
魔法鉄鋼王国。
学術科学都市。
銃撃。
拷問の予定。
勇者の二重契約。
光さんへのプロポーズ。
全てを話し終わった頃には時田さんはトリプルミックスグリルだけでなくパンケーキも食べ終わっていた。
……自分で食べる分だったらしい。
「……なんか想像以上にヤベえな。銃撃とかマジありえん。……かといってコイツほっとくのもヤベえ。どうすっかな……」
がしがしと時田さんは頭をかきむしる。
「うーんと、あのさ。もし源氏様が明葉ちゃんを選んでくれてそれでもう勇者やらなくて良いよって言ったら――辞める訳?」
明葉はゆっくり首を振った。
「……多分、辞めない」
「……理由は?」
「私は暴力に屈したくない。屈しない。もし私の爪を剥いで、指をもいで、顔を切り刻んで、それで私を操れると思ってる輩がいるなら――思い知らせてやらないといけない」
キッパリと明葉は言った。
遠藤雪菜の顔が浮かぶ。
暴力に訴えてまで明葉と対等であろうとしてくれた彼女。
その行為にだって明葉は一度だって屈したことは無かった。
そんなものに屈する訳には行かなかった。
それは明葉のかなり中核の部分を成していて、それが壊れてしまえば『安部明葉』という人物自体が壊れてしまう――そんな確信があった。
かつて公爵はそんな明葉を称して理不尽に強いと言ったが――そんな上等なものではないと明葉は思う。
ただ、認めたくないだけなのだ。
自分が間違っていると。
自分が弱いんだと。
自分が悪いんだと。
それを認めさせようとする意思に――屈したくないのだと。
どうしてそう思うのかは――分からなかったけど。
明葉の中核。その心臓部




