「どちら、様でしょうか」
「愛さんと別れて私と結婚してくれますか? 私だけを愛してくださいますか?」
その問いかけだけが頭の中にリフレインする。
当たり前だ。答えは聞かなかったのだから。
そう言うだけ言って光さんを突き飛ばして家を飛び出して来たのだから。
日曜日。今は何時なんだろうか。時計の無い明葉にはわからない。
ただ当てもなく街をさまよっているだけである。
「………………い」
とりあえず住宅地を抜けて繁華街方面に向かっているが、財布もケータイもない。
「……………ーい」
足はサンダル履きだし、Tシャツにキュロットという出で立ちだ。夜の街を徘徊するには少し肌寒い。
「…………おーい」
それでも光さんのいるあの家に戻る気にはなれなくて、住宅街の暗がりに戻る気にはなれなくて、明葉は明るい方に足を向ける。
「……もしもしー? 聞こえてますかー?」
一夜過ごすだけならコンビニとかで可能かもしれない。
「安部明葉さーん? 聞こえてますかー?」
急に自分の名前が耳に飛び込んできて明葉は立ち止まった。
ひょこりと顔を覗かせる人影。
――美少年だった。
声がもう少し高ければ美少女だと思ったかもしれない。
年の頃は十二歳ぐらいだろう。
あどけない顔立ちにライトブラウンの瞳が光る。
大粒のトパーズみたいなそれは明葉を写していて。
同色の緩くウェーブのかかった髪の毛が桜色の頬と小さな顎を縁取っている。
仁ノ宮さんが大輪の薔薇ならこちらは正しく咲き誇る桜だった。
「もしもしー? 固まられると困るんですけどー? 明葉ちゃーん?」
「どちら、様でしょうか」
この子は明葉の名前を知っていた。この顔立ちだし芸能関係者か。光さんの関係者か。
少年は。
にかっといたずらっぽく笑って優雅に一礼した。
「初めまして。魔法鉄鋼王国勇者安部明葉様。私の名前は時田空。農業連合の勇者にございます」
三人目の勇者、登場




