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「――命をかけねばあなたは振り向いてくれないでしょう?」

六月二十四日。日曜日。午後八時。

光さんから電話が来た。

とりあえず起こった事を洗いざらい話す。

返事は、

「三十分待て。そこを動くな」

それだけ言って切れた。

――三十分後。

明葉は自宅のリビングでひどく不機嫌な光さんにお茶を出していた。

ピリピリと殺気だっている。

「撃たれた、か」

「撃たれました」

大人しく頷く明葉。

ガンッと光さんは湯飲みをローテーブルに叩きつけた。

「……お前さあ、もう勇者辞めたらどうだ」

俺が甘かったと光さんは言う。

まさか向こうがそんな暴力的な事をしてくるとは思わなかったと。

「たいしたことじゃありませんよ。そんなに痛く無かったし――」

「そういう問題じゃねえんだよっ!」

ぐいっと襟首を捕まれ立たされる。

息がかかる。

光さんの息が。

憤怒と後悔を交えて。

「わかってんのか!? お前殺されかけたんだぞ!?」

グレイのレンズの奥底が見える。

ただの二十七歳の素顔。

それが激怒していた。

明葉を傷つけた学術科学都市に対して。

それを傍観した魔法鉄鋼王国に対して。

何より――勇者を続けさせた自分に対して。

「……大丈夫ですよ。痛いのには慣れてますし、重要な新事実もいくつか分かりましたし。――私の命一つでそれが分かるなら安いものでしょう」

「ふざけんなっ!!」

パシンと乾いた音がして頬に衝撃が走る。

思わずよろめいた明葉を光さんは強引に引き戻す。

「俺は……俺はそんなことまで頼んだつもりはねえんだよっ!! 子供に命を懸けさせてまで向こう側のことを調べたくはねえんだよっ!!」

「……だって」

自分でも驚く程に。

妖艶な、声が出た。

「――命をかけねばあなたは振り向いてくれないでしょう?」

光さんは――明葉を見る。

「これ」は何だ?

「これ」は本当に俺の知っている安部明葉か?

「これ」は本当にあのお子さまなのか?

渦巻く疑問と恐怖を瞳に宿して光さんは明葉を見る。

突如「女」に豹変した「少女」をみる。

「これは貸しですよ。貴方を引き留めるための」

命を懸けて異界に赴く少女を見捨てる事など光さんには出来っこない。

それが出来るようならここまで取り乱してはいない。

ならば、そこに付け入るまで。

きっと勇者で無くなった明葉など光さんには何の価値も無いだろうから。

「お前が勇者じゃなくなっても!!」

悲鳴のように光さんは叫ぶ。

「メールもする!! 電話もする!! 週末には会いに行ったって良い!! それで良いだろ!!」

「――だったら」

その言葉は。

言われるのを待っていたように喉から滑り落ちる。

血のように。毒のように。


「愛さんと別れて私と結婚してくれますか? 私だけを愛してくださいますか?」


好きだった。

初めて会った時からずっと。

別の人の物になってもずっと。

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