「――ぬしは初代の墓の前で同じことが言えるか」
「――改めまして。ようこそお出でくださいました。魔法鉄鋼王国勇者安部明葉様」
「改めまして。初めまして。魔法鉄鋼王国勇者安部明葉です」
会談開始から一時間。
会談は改めて仕切り直された。
とりあえず明葉は勇者界に戻り。
その間に江藤命の回復と着替えと入浴が行われた。
弾けた腹もヤバかったが着ていた服も血まみれだったのだ。
場所も移され――それでも監獄風の鉄格子と固定された家具は変わらなかったが――兵士の数も半分程に減らされた。
「……豪胆ですなあ。明葉様は」
クラウディオ市長が言った。呆れたようにしみじみと。
「何がでしょうか」
「今までの勇者なら手足でも撃ち抜けばもうこちらには帰って来れなくなっておりましたからのう……。腹に一撃喰らって平然と舞い戻って来たのは初めてですじゃ」
学術科学都市市長クラウディオ・ベガ。こんな話し方だが見た感じ三十代半ばぐらいだ。公爵よりも若い。
広島方言ということもあるまい。
……いや、あるのかもしれない。仁義なき世界にどっぷり浸かってしまったとか。
先程の仁義なき一撃を思い出した明葉の背を冷や汗が伝う。
なんだろう。
別の世界の人間だと思ってた時は怖くなかったのに。
銃持ったヤクザ映画ファンだと思ったら急に怖くなった。
「……いや、まあ、そんな痛くなかったし」
「ほほう? ……なんぞしおったか。小童が」
「江藤一族を甘く見てはいけませんよ。召喚術も日々進歩しているのです。勇者様へのご負担はあなた方の想像以上に軽減されています」
いや、小童ってあなたの方が年下でしょうとか。
頑張ってるのは別室で拘束されてる龍と腹撃ち抜かれた命であってお前はなにもしてないとか。
色々突っ込み所はあったがそれを全てスルーすることに決めた明葉であった。
マップさんの例から考えるに。
話し方でキャラ付けができると言うのはこの世界では一種のステータスなのだろう。
外国語をキャラが立つまで使いこなすことを考えればそれは確かに努力と教養を表すのだろう。
おそらくこの世界では。
日本語と言うのは共通語として使われてる。
かつてのヨーロッパ世界におけるラテン語のような使われ方だろう。
使える事が教養であり階級を示す。
「エトーか……。初代を殺した罪の一族が偉くなったもんじゃのう……。」
「はは。実際禊には手間かかりましたからねえ。いやあ、こっちもまさかあんなことで彼が死んでしまうなんて思ってもみなかったもので」
「ぬしも同罪じゃろうて。普通死ぬわ。あんなことになったらのう」
……すごく重要な話をしている気がする。
勇者召喚の根幹に関わる話を。
――あるいは三十年前の真実を。
「はは、僕も死ねるものなら死にたかったですよ。いやあ実際あの時は――地獄でしたね」
「ぬしらが始めたことじゃ。今も続けておることじゃ。いつ何時あのようなことが起こらんと何故言える」
「安全対策はしている、としか言いようがありませんね。さっき言ったような召喚術の改良もそうですしバックアップ体勢も整えました。候補者の選別もより厳しく行うようにしています。勇者様の行動も大分制限させていただいております」
「――そこまでして幼子に重荷を負わすか」
クラウディオさんは怒っているようだった。
それも明葉を心配して。
「――かけがえがないのですよ。未来というものは。あなたあと何年生きられます? 三十年? 僕に至ってはあと十五年あるかないかだ」
公爵は――絶望しているようだった。
短い余命に。残された時間に。
「彼女は違う。ねえ、わかりますか。彼女はこの先百年生きたっておかしくはないんですよ」
百年後。安部明葉百十四才。あり得なくはない数字だ。
「わかりますか。この希望が。遠く遠く決して見ることの叶わない未来に――彼女を通してなら手が届くんです。想いが――届くんですよ」
「――生きておればの話じゃろうて」
ぎろりとクラウディオさんは公爵を睨み付けた。
「それを危うくしておるのは誰じゃ? 一体何人の勇者がぬしらのせいで亡くなった? とうの昔に二桁は越えたであろうが」
明葉は思わず公爵の顔をみる。
凍てついたような表情の抜け落ちた顔がそこにあった。
「――必要な犠牲ですよ。彼らは勇者に適さなかった。それだけのことです」
「――言いおるわ。かけがえがないんじゃろう? 幼子の未来というものは。それを踏み潰しておいて、必要な犠牲? よく言えたものじゃ」
「あるいは不運な事故とでも。もう千人以上召喚しているのです。死者数が一パーセント未満であると言うのはむしろ称えられるべき事柄では?」
「信じても無いことをようぬかすわ。忘れたとは言わさんぞ初代勇者五人の死。あれが数字で割り切れるものか!」
公爵は、眉一つ動かさない。
「たった五名の尊い犠牲により我らが七国は大いに躍進を遂げました。彼らの犠牲なくしては今日の繁栄はあり得なかったでしょう」
「――ぬしは初代の墓の前で同じことが言えるか」
ぎしりと音を立ててクラウディオさんは立ち上がる。
右手の拳銃がぎらりと光り、公爵めがけて降り下ろされた。
血。
どこか切ったのだろう。能面のような公爵の顔を赤い血が流れていく。
まるで涙のように。
「いつまでこんなことを続ける気じゃ! 年端もいかない子供を拐って操り人形に仕立てて! ぬしは楽しいだろうさ! じゃがその人生に責任が負えるとでも申すか!」
公爵はゆっくりと血を拭う。
そしてそのままクラウディオさんを殴り付けた。
「――そんな覚悟とうの昔にしている! ああ、背負ってやるともさ! 千人の勇者も!二百万の魔法界も!七十億の勇者界も! 全て背負って絶望の未来を変えてやる!」
しばらく。
息の音だけが響く。
それを破ったのは――。
「――あの、とにかく仁ノ宮さんに危害を加えるつもりはないってことで良いんですか?」
――安部明葉。
特技、空気を読まない。




