(……いつか、引きずり出してみせましょう)
一日で終わった戦争のその裏側。
四月二十五日。午後八時。神聖王国王城鋏要らず専用工房
どうにか逃げ切って。
勝利をもぎ取って。
アランはここに帰ってきた。
講和の使者は既に和解の返事をもらってきている。
――あらかじめ示し合わせたような早さだった。
(……まあ、彼を相手に八百長なんて出来るはずもないのですねけどね)
それでも。
この戦闘がアランの勝利によって終結するよう工作がなされたことは確かだ。
アランが最初に投げた『針』は魔法鉄鋼王国で作られたものだし、塗られた毒はその同盟国農業連合が用意したものだ。
魔法鉄鋼王国の進軍部隊に江藤蓮がいなかったこともそうなら、神聖王国軍にアランがいたこともそう。
全ては鋏要らずのアラン・シセが江藤蓮を下したという事実を作るため。
そのために今回敵であるはずの神聖王国と魔法鉄鋼王国は手を結んだのだ。
――『戦争』を終わらせるために。
疲れた、というのが一番正しいだろう。
もう二十年だ。
魔法鉄鋼王国でさえ建国三十年。
神聖王国に至っては建国してからの二十年間ずっと戦い続けだ。
多分本気で殺し合っていたのは最初の十年ぐらいだろう。
残りの十年は何とか着地点を探そうとした十年だ。
この世界の人の寿命は短い。
恨みつらみ憎しみなど世代を越えて伝える努力をしなければすぐに消え去ってしまう。
そう言う意味では良く十年もったと言っても良いくらいだ。
なにより――。
近年、同盟国の国力の増加が洒落にならなくなっていったのである。
北限国家は着々とその領土を広げ資源開発に余念がないし。
農業連合はその農業生産高を着々と増やし七国全体の胃袋を握るようになっていたし。
学術科学都市の火器はそのバリエーションを増やしながら着々と整備されていたし。
銀行商業都市の銀行は七国の主要都市全てに支店を出し、なくてはならないものになっていたし。
南洋連合は元々のサトウキビ栽培に加えて塩田開発を始め塩と砂糖の流通を一手に握ってしまうし。
――もう、無駄な争いをしている場合ではなかった。
このままでは両国ともどこかの国の属国になってしまう。
擦り切れ疲れ果て――国でいられなくなってしまう。
――そう気づいたものが神聖王国の『法王』と魔法鉄鋼王国の『公爵』だったことが両国の幸運だった。
二人は密かに手紙を取り交わし――今回の事を計画した。
(最後まで揉めましたよねえ……。どっちが勝つかについては)
揉めた。
などと言う生易しいものではなかった。
五年以上の歳月がそれに費やされた。
流れなくても良い血が流れ――死ななくても良い人が死んだ。
(最終的にこちらが賠償金を支払って勝利を――『買い取った』はずなのですけど……)
やはりというかなんというか。
アラン・シセを殺せる絶好のチャンスを向こうが見逃すわけがなかった。
江藤圭。江藤龍。江藤真。江藤家次期当主まで担ぎ出しての襲撃である。
もっとも。
この程度向こうは契約違反とも思っていまい。
アランとてこのぐらいは織り込み済みであった。
それでも殺されかけたのは――目の前の江藤蓮の圧倒的存在感故であった。
予想外の連続であった。
魔法に対する常識が崩れ去った。
物質化。遠隔攻撃。超速再生。
これまで生命活動の一環でしかなかった魔法を――生命から見事に切り離して見せた。
やはりあの男こそ七国最高に相応しい。
だからこそ。
彼を勝たせる訳にはいかなかった。
あの男はアランと違って生きていくのに――国を必要としない。
国家という枠組みのいわば外側にいる。
それを止める者が誰も居なくなってしまったら――七国という枠組みは崩壊してしまう。
七国最強は――アラン・シセ、否。
神聖王国法王フランシスコ。
そうでなくてはならない。
「生きてた~?」
突如ドアを開け入ってくるメイド。
アランがデザインしたメイド服――ミニスカートとニーソックスの組み合わせには並々ならぬこだわりがあった――に身を包み、王宮への所属を明らかにしているもののこの工房に入れるメイドではない。
「……………あなたですか」
これが江藤蓮と並ぶ問題児。
勇者召喚の枠組みを壊す――神聖王国勇者仁ノ宮愛。
そして――おそらくは。
二十年前の戦乱の始まりを招いた男――仁ノ宮進の一人娘。
神聖王国初代勇者――斉藤優香――を殺した男の娘。
(……いつか、引きずり出してみせましょう)
あの男は。
七国に混乱と戦国を招いたあの男は。
まだ――生きている。
「ちょっと向こうの勇者に興味湧いたから会いたいんだけど」
「……手配しましょう」
夜は更けていく。
仁ノ宮愛と安倍明葉の邂逅まで――あと三日。
二十年前。
神聖王国の始まり。
戦乱の始まり。




