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「付き合ってられますかッ!」

戦争の終幕。

もぞり。

肉塊が蠢いた。

瞬間。

四百メートルの円の中に飛び散った肉塊全てが蠢き出す。

中心にある一点へと。

もぞり。もぞり。もぞり。

それはまさに悪魔の所業だった。

死んだはずだ。肉体は四方に飛び散り再生は不可能なはずだ。


「死んだはずだ――とでも思ったか?」


答えたのはアランが掲げた生首。

その目には生気が宿り、その口は意思を持って動く。

「ッ!」

思わずその目に鋏要らずを突き刺し――ジャキンと閉じた。

眼窩を通して脳を切り裂く手応え。

しかし。


「――それで、俺が死ぬとでも思ったか?」


口は意思を持って動く。

揺るがぬ意思を持って。

「ッ!」

反射的に鋏要らずを引き抜き血振りをすると口のなかに突っ込んだ。

喉を貫通した鋏要らずを引き抜き舌を切り落とす。


「これなら流石に――」

「――どうした。もう終わりか?」


生首と目があった。潰したはずの両眼は何事もなく再生し切り落とされた舌は相変わらずそこにあった。

「ッ!」

思わず。

生首を取り落とした――否。

地面に叩き付けた。

その生首に肉片が群がる。

ビクビクと痙攣しながら肉片は腕を脚を胸を腹を腰を形作り――最後にジャゴギャゴッっと音を立てて骨が通った。


「――ふう。流石に死ぬかと思ったぞ」


男は。

一糸まとわぬ姿でそこに立っていた。

産まれたままの姿――なんてとても言えない醜悪さだった。

焼け焦げた組織があちらこちらに入り交じり、気味の悪いモザイク模様を描いている。

四肢から骨が飛び出し内臓がベコベコと音を立てて蠢いている。

生き物――とは到底思えぬ姿だった。


「……」

アラン・シセは身構える。切り札はもう使ってしまった。ここから先は一人で戦わなければならない。

この怪物と一人で。


――それこそがまさに油断だった。


「……え?」


突如腹から針が生えた。

戦闘開始直後、自分で投げた『針』が。

致死毒を塗った――『針』が。

体が崩れ落ちる。

思考が黒に染まる。

視界が閉ざされる。


――生きて!


力を、感じた。

信頼の絆。

三十万人の祈り。

それを通じて魔力が流れ込んでくる。

温かな命の力が流れ込んでくる。

ダンッ!

地面に拳を叩き付けて体勢を立て直す。


「「「遅い」」」」


三本のロングソードが走る。

アランの首筋めがけて。

一本を左腕でガードする。

一本を鋏要らずでへし折る。

その間を縫う一本がアランの首筋を掠めた。


バシュッ!!

鮮血が噴き出す。

その一太刀は確かにアランの動脈を食い破った。

「ぐうううっ!!!」

咄嗟に。

傷口を押さえた。

右手で。

――鋏要らずを取り落として。


「「「隙あり」」」


吸い込まれるように。

ロングソードが走る。

アランの心臓目がけて。


バキリ。


折れる。

ロングソードが。

モザイクの腕に突き刺さる。


「邪魔するな。ゴミ」

江藤蓮は、

言って、

掴んで、

投げ捨てた。

その距離、二百メートル。

カランと音を立てて兵士の中に落下するロングソード。


「誰だか知らんが――邪魔だ。去れ」


返答は斬撃。

右腕が。

左腕が。

左足が。

切り飛ばされる。

舞う血飛沫。

モザイクのつなぎ目からボロボロと千切れ飛ぶ手足。

しかし。


「――丁度良い。すっきりした」


右足一本で立つ蓮の。

右腕が。

左腕が。

左足が。

虚空より現れて傷口に接続する。

それはまさに一瞬。

今までは本気ではなかったとばかりの超速再生――!!


その光景に戦慄したのはアランよりもむしろ襲撃者。

即座に踵を返し攻撃も防御もかなぐり捨てて闘争を開始する。

三人バラバラの方角に逃げ少しでも生存率を上げようと――


それを江藤蓮は許さない。

右腕と左腕が――伸びた。

否。それは『蛇』。

蒼鈍色の鱗を光らせ三匹の『蛇』が襲撃者を追走する――!!


「――良いのですか」

アランは。

ようやっと傷を塞ぎ終わったアランは言う。


「あれはあなたの一族の人でしょう。殺してしまっても――良いのですか?」

「ん? ああ、そうか。そうなのか」


江藤蓮は――そこでやっと気が付いたようだった。


「そうか。あれは俺の弟と息子だったな……。忘れていた……」

「……けい君と龍君としん君ですね」

「まあ、いいか。あいつらなら自分でどうにかするだろ」


そう言って。

既に襲撃者への興味を失ったようだった。

視線はアランから離れない。


「さて、回復したことだし再戦といこうか」

「いやいやいや。重傷者が何言ってるんですか。と言うか、どっからどう見ても僕の勝ちでしょう!」

そう言うと。


「俺はまだ負けてない」


負けず嫌いで意地っ張りな瞳が闘志に燃えていた。

そうだった。

こいつはそういう奴だった。

最強の称号のためなら王都防衛も勇者召喚も放り出して突撃かますような馬鹿野郎なのだった。


ジョキンッ!!


「付き合ってられますかッ!」

言って。

鋏要らずで切り落とした首を魔法鉄鋼王国側に投げ飛ばした。

「あ、こら! 卑怯者おおおおお!」


ジョキン。ジョキン。ジョキン。ジョキンッ!!


そのまま四肢を切り落とし――投げる!!

意外なほどに赤い血が弧を描き追走する。


――自身の回復力に絶対の自信を持つ江藤蓮は基本敵の攻撃を避けない。

その弱点を突いた。


「よっこいしょ」


胴体は流石に両手で抱えて勢いをつけて放り投げる。


ひゅうううううん。

べしゃ。


……………………うん。まあ、死なないだろう。

江藤蓮。七国最新最高の魔法使い。

その叡知を今失う訳にはいかない。

というか。

そもそも彼は知らないのだろう――とアランは一人嘆息する。

この『戦闘』が――八百長だったなんて。


江藤蓮は最新最高の魔法使い。

誰もが認める魔法使いの最高位。

だけど『最強』の魔法使いではない。

――だから最強になりたかった。

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