「折り込み済みです」
「結論から言えば山崎は勇者じゃない。むしろ佐藤雄介が勇者だった可能性が高い」
「そうですか」
六月二十三日。土曜日。午後八時。いつもの定期連絡ではない。光さんの方から電話がきた。
調べた結果を伝えると。
「山崎さんが勇者でないというのは?」
「俺の勘と自己申告だ。自分は先輩には選ばれなかった、ってな」
「選ばれなかった……ですか」
勇者はかつて勇者であった者からの推薦で決まる。
それがそういう意味なら、確かに佐藤が勇者で山崎は勇者じゃないのだろう。
「大学が別だろ。たまたま帝大に用があって見かけて驚いたらしいぜ。こう、信者みたいな連中引き連れてて」
もっとも、高校時代からその片鱗はあったらしいが。
光さんは呆れたようにいった。
「信者……自分が推薦した勇者でしょうか」
「どうやらそうらしい。そいつらが言ってたんだってよ。選ばれた者だけが行ける楽園。魔法鉄鋼王国」
「楽園……何だか随分イメージが違いますね」
今の魔法鉄鋼王国は現実志向だ。楽園とは程遠い。
それにしても……。
「カルトっぽいですねえ……」
「魔法に異世界だぞ? カルトじゃない方がどうかしてる」
「……それじゃ私がどうかしてるみたいじゃないですか」
「お前はどうかしてる。それは間違いない。話をもとに戻すぞ。佐藤は自分の選んだ人材を向こうに送り込んで一種教祖めいたことをしていたらしい」
「……教祖」
勇者になるものはかつて勇者だったものが推薦する。勇者の数が少なかった頃は正しくそれは神の啓示のごとき力があったのだろう。
「無論裏は取ってある。佐藤に三十年前から二十年前にかけての十年間、奴を信奉する取り巻きがいたことは確かだ」
「その間メンバーの入れ替わりは?」
「あった。というか基本的に高校生か大学生だ。大学出たら卒業するシステムだったらしいな」
佐藤雄介――衛藤連は十代の若者に人気のあった小説家だ。高校生を集める事など造作もないだろうし、甘言を弄して異世界で働かせることも難しくはないだろう。
正しく選ばれた勇者だけの世界。
しかし、それは唐突に終わるのだ。
「自殺の原因は分かっていますか?」
「不明だな。遺書には例の意味不明な走り書きしかなかったし、クロス・クロニクルの売り上げも順調だった。取り巻き同士のトラブルの話もなかったし、次回作の出版も決まっていた」
「順風満帆ですね」
「こちらではな」
だから、何かあったとするなら向こうなのだろう。
「……気を付けろよ。向こうが邪魔者になった佐藤を始末したって可能性もある」
「折り込み済みです」
それぐらいはまあ。予想の範囲内だ。殺されるぐらいなんてことない。生きても死んでも別に似たようなものだ。
「……お前は」
なぜだろう。盛大にため息をつかれた。
「いいか。今現在勇者であるお前が俺たちの生命線だ。勝手に死ぬんじゃねえぞ」
「分かってますよ」
流石にそれは。別に自殺志願者と言うわけじゃない。
「……本当にわかってるのか? まあいい、とにかく大人しくしてろよ。明日は昼外してくれ。代わりに召喚終わってからこっちからかける」
「了解しました」
プツン。
電話は切れて、静寂が戻る。
死んだ勇者。自殺した勇者。殺されたかもしれない勇者。
上等じゃないか。
明葉は人知れず不敵に微笑む。
大人しく殺されるつもりなど更々なかった。




