「健闘を祈ってるわよ」
雪菜編です。
「……読みます?」
「いらない」
とりあえずクロス・クロニクルを勧めてみた明葉に遠藤さんは即答した。
つれない。
代わりにすっと差し出されたのは一枚のチケット。
「誰がそれを言ったのか」。
劇団小宇宙の新作であった。
「あげる」
「……どうも」
日付は来週の月曜日。六月二十五日。午後四時から六時。
場所は新宿。席は前から五列目の正面。
「出演おめでとうございます」
「……ありがと」
西日の届かない薄闇の中、安部明葉と遠藤雪菜はしばし見つめあう。
両方が加害者で被害者だった二人。
遠藤雪菜は助けて欲しかったのだろう。
でも、安部明葉は助けたくなかった。
どんな形であれ――ここに強固に存在していた絆を断ち切りたくはなかった。
今、その絆が断ち切れた中で。
それでも、いつもと変わらず手渡されたチケットを見て。
「……見に行きますね」
目を逸らしたのは明葉の方だった。
遠藤雪菜。美貌、才能、家族、友達、理解。明葉の持ってない物を沢山持っている彼女。
憧れていた。嫉妬していた。埋まらない距離を感じていた。今だってそうだ。
――自分をいじめることで彼女が自分の所まで降りてきてくれるような気がしていた。
だけれど。
「……あたし、明葉が羨ましかった。いつも冷静で、一人でも平気そうで、賢くて。いじめる時だけ明葉がここまで落ちてきてくれる気がしてた」
遠藤さんはそんなことを言うのだ。
明葉をひたと見つめて。
「もう、それはやめにするから。あたしが明葉の所まで上がるから。だから――新しいあたしを見に来て」
「……先に言われてしまいましたね」
目を逸らしたまま明葉はため息をつく。
薙高に受かったら言おうと思っていたのに。
そう、いつだって遠藤雪菜は安部明葉の先を行く。
それでも、まだ友達だと言ってくれるなら――
「良いですよ。でも――私もいつまでもここにいるつもりはありませんから」
明葉の答えなんて決まっているのだ。
「……言うじゃない」
「薙高を受けるんです。これぐらいは言いますよ」
足を引っ張りあうだけだった二人。
これからはお互い高めあう関係に。
道のりは遠いけど二人ならきっと。
遠藤雪菜はすっと右手を差し出した。
安部明葉は迷いなくそれを握る。
「健闘を祈ってるわよ」
「同じく」
見つめあう二人の少女を書架だけが無言で見ていた。
雪菜吹っ切ってきました!! 良い子!!




