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「……すごい。」

「クロス・クロニクル」というのが衛藤連の著作だった。超能力バトルものである。

主人公は闇に生きる超能力者コードネーム「サウザント」。彼が超能力を悪用する悪人どもを成敗する話である。

それだけならよくある話なのだがこの話独特のギミックとして「ジャミング」というスキルがある。

超能力を使えるものなら誰しも使えるスキル。効果は超能力の無効化。発動条件は様々。

つまり、相手のジャミング発動条件を推理して発動を阻止しながらでないと超能力が使えず、その辺りの頭脳戦が一つの目玉となっている。

全二十五巻。かなりの長編であり、今なお読み継がれる名作であるそうな。

「……すごい。」

第一巻を読んだ明葉の感想であった。

単純なパワーゲームではなくジャミング発動条件を主軸とした頭脳戦に力点を置いているため展開が予想外だ。ドキドキしながらページをめくる快感を久しぶりに思い出した。

これを書いたとき佐藤雄介は大学一年生、十八歳であった。

頭が良いと言わざるを得ない。伏線の使い方も見事である。主人公が敵のジャミング発動条件に気付くまでの流れが実に自然だ。

水曜日。放課後である。

市立図書館ヤングアダルトコーナー閲覧席。

明葉はそこでクロス・クロニクルを読んでいた。

作家衛藤連の処女作にして最高傑作にして遺作。

彼が書いたただ一つの小説。

そこには魔法鉄鋼王国の魔の字も出てこなかった。

そこにいたのは「サウザンド」。

ジャミング発動条件を「一日千回」とする男。

使う超能力は「指鉄砲」。指差したものを僅かに動かす些細なテレキネシス。

ジャミングは強力。超能力は弱い。そういうキャラである。

ならばジャミングを主軸に戦うかというとそうではない。

彼が切り札とするのはあくまで「指鉄砲」だ。

決め台詞は「BANG!!」。

「困った、困った」が口癖の飄々とした何でも屋の男である。

昼行灯めいた容貌。無駄にひょろ長い背丈。

格好いいか悪いかで言えば悪いぐらいの容姿に護身術程度の体術。

そして最高に冴えた頭。それらを武器に飄々と悪と戦っていく様は確かに格好良かった。

願えば、頑張ればあの異世界で明葉もこんな風に活躍できるかもしれない――そんな風に思わせるだけの力があった。

それはきっと何より大切なこと。

今なお読み継がれるのはきっとそれが理由だ。

そして。

「魔法鉄鋼王国とは何だったのか?」は語るのだ。

佐藤雄介を知る山崎光治は語るのだ。

佐藤雄介こそ――サウザンドのモデルだと。

佐藤雄介が理想とした佐藤雄介。それこそがサウザンドなのだと。

そういうものなのかもしれないとも思う。

佐藤雄介。

三十年前の十七歳。

薙高クイズ研究会部長。

魔法鉄鋼王国を知る男。

――勇者だったのだろうか。

そうかもしれないとも思う。

だけど、そうでないのかもしれないとも思う。

賢い人は勇者なんかしないんじゃないか。

そんな気がするのだ。

もっとスマートに堅実にやるべき事をやっているイメージ。

薙高から帝都大学に進み在学中に作家デビューしたエリートとは重ならないような気もする。

しかし、薙高クイズ研究会か。

知のエリートにしてアスリート。

明葉の目指す場所。

あそこならばあるいは。

あり得るのかもしれない。

賢い勇者という存在が。

思えば、公爵が薙高にこんなに詳しいのも怪しい気がする。

あるのだろうか。

薙高クイズ研究会と魔法鉄鋼王国を繋ぐ糸が。

エトウレン。その名が偶然ではないとしたら。

三十年前。

何があったのか。


『クロス・クロニクル』。誰か書いてくれませんかねえ……。


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