「本名は佐藤雄介です。享年は二十七歳で――薙高の卒業生です」
薙高と魔法鉄鋼王国との意外な繋がりが明らかに……?
「エトウレン? そりゃあの魔法使いじゃなくてか」
六月十九日。火曜日。午後七時。
滑り込みで例の本を借りたのが閉館間際の午後五時。
それから一時間で読破して一時間考えて。
明葉は光さんに電話した。
『向こうの世界について話がある』と。
「字が違います。衛星の衛に花の藤。レンは連なるで――衛藤連です」
「二十年前に自殺した小説家――ライトノベル作家の走りみたいな連中の一人か。初耳だな。で、そいつの遺書にあったのか――魔法鉄鋼王国の文字が」
「はい。正確には『山手線を内回りに三周、外回りに三周すると魔法鉄鋼王国に辿り着く。僕はそこに行く。さようなら』というのが遺書の全文だったらしいです」
それが、『魔法鉄鋼王国とは何だったのか?』に記されていた内容だった。
二十年前。
十代の少年少女に人気のあった小説家の突然の自殺。
遺書に記されていた謎の異世界――魔法鉄鋼王国。
後に都市伝説として語り継がれる魔法鉄鋼王国のそれが始まりであった。
「ふん。紛らわしいな。そいつ本名はなんだ? どうせペンネームだろ」
「本名は佐藤雄介です。享年は二十七歳で――薙高の卒業生です」
「ふうん……」
考え込む光さん。
暫しの沈黙が流れる。
「……その本、『魔法鉄鋼王国とは何だったのか?』を書いた奴の名前は何だ?」
「山崎光治さんで今四十六歳――佐藤さんの薙高クイズ研究会の一年後輩です。大学は違うんですけど……」
「……そいつはまだ生きてんだな?」
「生きてます。今はクイズの作成者してるみたいで……。前に仁ノ宮さんがレギュラー出演してた『ワンダーブレイン』って番組あったじゃないですか。あの問題考えていた人みたいです」
「……それで、俺に電話してきた訳か。ふん。ちょっと待ってろ」
ワンダーブレイン。木曜6時からの子供向けのクイズ番組である。一年前に放送が終了した。
クイズというよりパズル的なゲームが主体の番組で明葉もよく見ていた。
「……名刺あったぞ。山崎光治だったな? 光に治るで良いんだよな?」
流石。
仁ノ宮さんは学習障害者だ。おそらくそれを考慮したゲーム構成にするよう要請したと考えたが、当たりだったか。
「週末までに調べて来てやる。お前は待機してろ。危ないことはするんじゃねえぞ」
「了解です」
「じゃ、何か進展があったら連絡しろ」
言って。電話は切られた。
明葉は手の中の本を見る。
『魔法鉄鋼王国とは何だったのか?』
白い背景に藍色から水色に変わるグラデーションの文字。
日常にすっと滑り込んできた異世界。
ぶるりと明葉は身震いした。




