明葉にはわからなかった。
交錯編と題しましてしばらくさまざまな人々の思惑が交錯していきます。
楽しんでいただけると幸いです。
数学零点ならば無報酬。
冷静に考えるとすごい条件であった。
その事に明葉が気付くのは六月十八日。月曜日。
過去問を開いてからのことであった。
解説を読めば何を言っているかはわかる。わからない単語が一つもないのだ。
つまりは高校レベルの知識を使って難易度を上げている訳ではないということ。
全てが数学オリンピック級といわれるその問題は中学レベルの知識解けることに重点が置かれている。
問われるのは閃きと論理的思考力。
薙高数学の問題構成は論理一題、計算二題、図形二題の五つの大問からなるのが特徴だ。
配点は各二十点。
制限時間は一時間。
採点方法は部分点すら稼ぎようのない減点方式。
この内小問一つでも取れれば明葉の勝ちだ。
というか、小問一つ取れるかどうかだ。
何を選ぶか。
数式を用いない論理か。
解法次第では正解でも点がもらえない計算か。
閃き勝負と呼び声高い図形か。
迷った末明葉は論理を取る。
これだけは中学校で習う以上の公式を使用しても減点されないのである。
すなわちブール代数もド・モルガンの公式もその使用が認められている。
公式であれば大学レベルのものであれ記憶している明葉が戦えるフィールドはそこしかないだろう。
むしろ、ここでなら明葉は自分でも驚くほどに戦えた。
ブール代数が効いている。
流石にブール代数を使用しない範囲で難しい論理問題を作るのは難しいのだ。
使えば、解ける。
問題は公爵がこれを正解と見なすかであった。
採点するのが向こうなのである。
得点などどうとでも出来る。
それを覆す力は明葉には無かった。
明葉の解法は模範解答から外れている。
零点と見なす事も出来る訳だ。
しかし、それが狙いと見るには。
直接的すぎる。スマートじゃない。
魔法鉄鋼王国先端技術大臣のなさりようではない。
公爵なら明葉の方から報酬を放棄するよう持っていくんじゃないだろうか?
あるいは、ここで気を引いておいて油断したところに何か仕掛けてくるのかもしれない。
勇者召喚においては勇者に喚び出した側の望む報酬を願わせる事が重要だと明葉もなんとなく理解しはじめた。
勇者に思いのままの願いを望ませる事ができれば。
冒険者はその通りに動くだろうし、立場に反する行動も取れる。
こんな便利な技術公爵が修得していない訳がない。
何点かなら取れると読んで報酬を使わせる気なのだろうか。
だとするなら、それはいったいなんなのか。
あまり賢くない明葉にはそれが精一杯であった。
明葉には学術科学都市に利する願いでも叶えると言った公爵の真意はわからない。
それでも公爵が学術科学都市を倒しておしまいというような単なる敵と見なしているわけではないのはわかる。
かといって食い尽くすだけの獲物でもない。
七国の一角。科学の頂点。
対等な相手として、一つの国として扱うつもりなのだろう。
それでも。
主義主張は相容れないはずだ。
そこをどうするつもりなのか。
明葉にはわからなかった。




