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「やはりというかなんというか、あなたもそれを望むのですね」

「やはりというかなんというか、あなたもそれを望むのですね」

六月十七日。日曜日。午後四時。魔法鉄鋼王国先端技術大臣室。

冒険者との会談が終わって、公爵と明葉と江藤龍三人きり。

「あれはやはりあなたの仕掛けたことでしたか」

明葉は静かに嘆息する。

まあ、そうだろう。

明葉の目の前で起こることなど大概が公爵プロデュースである。

「というよりはゴールド氏の仕掛けたことですね。もちろんこちらでも把握していましたが」

知らなかったのは、明葉とマップさんだけだったのだろう。

マップさんの激昂は演技ではなかった。いやまあ、ただの勘なのだけど。

明葉には人を見る目がない。外れている可能性も十分にあるのだけど。

思い出す。

ここに来る前光さんに言われた言葉を。

『――お前に喧嘩ふっかけてくる奴がいたらそいつには逆らうな。勝てっこねえ』

たぶん間違いなくマップさんは演技派だ。

しかし、それを差し引いてもゴールドさんがマップさんに知らせなかった可能性はあるだろう。

まあ。

どっちでも良い。

マップさんに騙されたのなら多分許せる。

「勇者は人の死を忌み嫌う。こちらの人間には理解できないレベルで。あなたもまた同じだったということですか」

「いけませんか?」

この世界の生死観はわからないけどとりあえず明葉はそう言った。

死を嫌ってはいけない理由など明葉にはわからない。

「いえいえ、それで良いと思いますよ。生命尊重は勇者界の核となる思想ですから。むしろここは我々が歩み寄らねばならない所でしょうね」

流石は北限国家の冒険者。

感心したように公爵は呟いた。

北限国家。

聞いているのは開拓によって領土を拡張する冒険者の国だということだけだ。

冒険者の本場。

今回調査団の責任者に北限国家の冒険者が選ばれたのもその実績を評価してのことだとか。

「……報酬はきちんと支払って貰えるんでしょうか」

「大丈夫でしょう」

公爵は自信ありげに言った。

「そこまで無理をする段階でもありません。熟練の冒険者を選りすぐってありますし、欲を出さなければ何も起こらないでしょうね」

「欲を出さなければ?」

「ええ、欲を出さなければ」

公爵はゆるりと首を振った。

「だからこそ、あなたの保証が必要だったということです。冒険者にとって勇者とは絶対の存在ですから」

絶対とな。

それはまた随分と重い言葉だ。

「勇者の下請け――それが冒険者の始まりであり、今尚続く冒険者の花道です」

勇者に会えるということは、それだけでステータスなのです。

そう言って公爵は明葉を指差した。

「――例えあなたでも」

その言葉には価値がある。

明葉を指差したまま公爵は続ける。

その手を明葉は掴んで下ろした。

「……怒りましたか?」

つまらない者を見る目。ふうん。なんだこれぐらいで怒っちゃうのかというような。

明葉はそれを無視してポケットを漁る。

じゃらりと藍色真珠を引っ張り出して、掴んだ手にかけた。

「お返しします」

「……それはどうも」

公爵はハンカチで藍色真珠をくるんでポケットにしまった。

「マップさんは何がしたかったのでしょう」

「来て欲しかったのでしょうね。あなたに最前線まで」

何でもないことのように公爵は言った。

叶える気などさらさら無いのだろうと分かるほどあっさりと。

「私が、何しに?」

「見せたかったのでしょう。前線の過酷さを。この世界の過酷さを――嘆かわしいことです」

公爵はそう言って首を振った。

「向こうの世界が平穏だと思っている。向こうの世界が悲惨ではないと思っている。向こうの世界はなんの努力もしていないと思っている。――実に嘆かわしい」

そうだろうか。明葉にはその通りに思えるが。

「平穏も安定も平和も躍進も――全ては下で支える人あってのことです。表面の穏やかさにのみ目を奪われて水面下での苦労が分からないのではね」

まだまだです。

公爵は言った。

明葉は思う。

確かに穏やかな中にも悲劇苦労はあるだろう。

しかし、それと激動の中の最前線を比べるのはどうなのか。

「我々は見てきたのです」

明葉の不満を公爵は一蹴する。

「都市が破壊され山が崩れ海が荒れ狂い数千という単位で犠牲者を出し――しかしそれでも甦ってきたあなた方を」

平和ボケなど――言えたものではありませんよ。

公爵は遠く遠くを見て言った。

見えているのだろう。

瓦礫の中でそれでも規律正しく思いやりを持って被害を極力抑えるため行動した人々が。

あっけなく崩れた平和をそれでも壊さないために行動した人々を。

「我々の平和をなめるな――そう言われた気がしたものです」

公爵は。

淡々と言う。

そこにどれだけの思いがあるのか。

明葉にはわからない。

三十年その重みの一端が見えた気がした。


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