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「……なに考えてやがります?」

「憎たらしいほど余裕ですねえ。こっちは命を賭けてるんですぜ?」

「ギル、口を慎め」

明葉は目の前のやり取りを無視して公爵を見る。

笑ってない目がすうっと細くなって唇が笑みを形作る。

明葉の作り笑いより数段上の余裕の笑み。

お手並み拝見と行きましょうか。

といった所だろうか。

良いだろう。元より勝手するしか能のない安部明葉だ。

好きにやらせてもらうとしよう。

「よそ見してんじゃねえですよ。こっちの事なんか眼中にありませんかってかあ?」

「失礼いたしました。マップさんとお呼びしても?」

マップさんは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「俺はこの名に誇りを抱いてるんですけどねえ? こんなに不愉快なのは生まれて初めてですよお?」

ぎらりと八重歯が光る。獲物を前にした肉食獣のようだ。

マップ。それは完成物だ。測るという行為ではなく、測りという道具ではなく。

成果物の名を名乗るその意味は。

「ならば尚更マップさんとお呼びいたしましょう」

「喧嘩、売ってんでございますかあ? 不愉快ってんでしょうが!」

「――不愉快ごときの事で」

明葉は静かに言う。まるで王妹殿下であるかのように。

「あなたはその誇りを取り下げるべきではありません」

「……なに言ってやがんですかねえ。この小娘は」

憎々しげなマップさん。

ヤバイな。この人結構タイプかもしれない。

「言い過ぎです。ギル。勇者様失礼いたしました」

紅一点のレイチェルさんがマップさんの頭を掴んで無理矢理下げさせる。

レイチェル・ラングさん。ショートカットの美人さんだ。マップさんほどではないが四人のなかでは若い方だろう。二十代前半ぐらいか。

レイチェルさんは自分も頭を下げて平謝りする。

「申し訳ございません。この者には後で言って聞かせますので、どうかご容赦を」

いい人なのかな。それとも。

――良い刑事と悪い刑事と言うやつだろうか。

まあ、いい。

どっちにしろ返す言葉は決まっている。

「私は気にしませんよ。マップさん。どうか続きをお願いします」

「……その名で呼ぶなと言ってんでしょうがあ。続き? ……あんたこの調査にどんだけの覚悟があるんです?」

レイチェルさんの手を振り払い、マップさんは射抜くような目で明葉を睨み付けた。

……うん、よくよく見れば結構なイケメンなのではないだろうか。

サファイアブルーの目が大きめでちょっと幼く見えるところが逆に良い。

それはさておき

「そう問うのでしたら――どんな覚悟もございません。いかなる意味でも何の決意もございません、とだけお答えしましょう」

率直に。素直に。誤魔化さず。元より、駆け引きの仕方など分からない。

さて、どうくるだろうか。

「……ふざけてんですかあ? 最悪人死が出てもおかしく無いんですよお?」

「「「ギルッ!」」」

ゴールドさんがマップさんを取り押さえ、額を机に叩きつけた。

他の二人もそれに倣ってマップさんを押さえ付ける。

「勇者様、どうかこの者の言うことはお気になさらずに――」

「――隠したってしょうがねえでしょうがあ」

ぐいっと首だけを動かして顔だけを明葉に向けたマップさんがゴールドさんの話をぶったぎった。

「ゴールドさん。マップさんから手を離して下さい。私は気にしませんので」

「いえ、しかし勇者様――」

「手を離して下さい」

渋々とゴールドさんはマップさんを解放した。

「……なに考えてやがります?」

解放されたマップさんは低い声でそう問うた。

ふむ。何を、と言われれば一つだけ。

「正論と言うのならそちらこそが正論でしょう。何故捩じ伏せる必要がありましょうか」

誰が悪いのかと問われれば、それはやはり明葉なのだ。

何も知らなかった明葉なのだ。

何の覚悟もない明葉なのだ。

マップさんを責めても仕方ない。

だから、明葉に出来ることは一つだけだ。

「勇者安部明葉はこの会見の報酬として調査団全員の帰還を望みましょう。一人の死者も出さず全員が帰還できることを望みましょう」

最初からこれが望みだというなら褒めてやる。

見事な手並みだった。

感服としか言いようがない。

「ふっざけんなあ! そりゃ命令だろうがあ! なに勝手なことを言ってやがるです!」

けれど少なくともマップさんの望みでは無いようだった。

ふむ。裏に誰かいる……?

心当りは一人いるが、それ以外でも別におかしくなさそうな。

ここで明葉に報酬を使わせたかった人物。

調査団の安全を保証するその裏付けが欲しかった人物。

あるいは、二人が手を組んだか。

だとすればマップさんの役割とは。

ギリギリと歯軋りが聞こえる。

マップさんは赤を通り越して蒼白な顔をしていた。

握りしめた手がぶるぶると震えている。

してやられた、と気づいたのだろう。

彼自身は彼で別の望みがあったのか。

あるいは、純粋に明葉が気に入らなかったのか。

公爵の冷静な声がその場を切り裂く。

「――その報酬受理いたします」


マップさんの言葉遣いはわざとです。

彼はそれがカッコいいと思ってやってます。

そして七国圏内の美的感覚からするとこれはかなりカッコいい話し方に入ります

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