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「――まどろっこしいことは止めませんかね。勇者様」

北限国家の冒険者――精鋭中の精鋭の冒険者の登場です

「王妹殿下におかれましては本日もご機嫌麗しく。こちらが北限国家よりの使者ビル・ゴールド以下三名でございます」

「そうですか」

六月十七日。日曜日。午後三時。魔法鉄鋼王国先端科学大臣室。

非公式の会見ということで舞台は相も変わらずであった。

明葉の首には藍色真珠の首飾り。

王妹殿下としての正装だった。

服装もいつのも着古した黒ローブではない。

滑らかで真っ白な上質な生地に金糸と銀糸で刺繍し、裾に宝石を縫い付けた豪華なローブだ。

どうやら魔法鉄鋼王国においてはローブが勇者の正装であるらしかった。

何はともあれまずローブ。

ドレスアップしてもローブ。

そこは徹底していた。

それはさておき。

ビル・ゴールド。

意外と若い男だった。

大富豪という言葉から公爵と同年代を想定していたのだが、そこにいたのは二十代半ばとおぼしき金髪の青年だった。北方風の色素の薄い顔立ち。アイスブルーの瞳からは何の感情も読み取れなかった。

醜い、とは思わなかった。かといって美形なのかどうかも明葉にはわからない。

白人さんの美醜が判別出来るほど明葉は外人慣れしていなかった。

洋画は見ない派であった。

ハリウッドに興味はなかった。

それでも。

ぴしりと着こなしているスカイブルーのスーツがよく似合っていることはよく分かる。

スーツ。

この魔法界においては神聖王国でオーダーメイドするしかない高級品。

魔法鉄鋼王国公爵ディルク・シュンペイターですら着ているところを明葉は見たことがなかった。

オフホワイトのネクタイ、サファイアの嵌まったプラチナのネクタイピンと揃いのカフスボタン、左手の機械式腕時計まで含めて戦闘服、なのだろう。

真珠の首飾りが無ければ価格的には負けているかもしれなかった。

「お名前をお聞かせ願えますか」

「…………恐縮です。ご紹介に預かりましたビル・ゴールドと申します」

「ご尊顔に拝しまして恭悦至極に存じ奉ります。エドワード・メイプルと申します。どうかお見知り置きを」

「今回は測量を担当させていただきます。ギルバート・マップと申します」

「現地勢力との交渉を行います。レイチェル・ラングと申します」

「……ありがとうございます」

困った。

見分けが付かない。

流石にレイチェルさんは紅一点なので分かるが。

ビル、ギル、エドの三人がごっちゃになる。

顔は覚えられる。安定の写真記憶である。

問題は名前であった。

いくら鈍い明葉でも彼らの名字がいわゆる家名でなくそれぞれの専門領域を指しているのだろうということはわかる。

金鉱を掘り当てたからゴールドさん。

測量を行うからマップさん。

言語が専門だからラングさん。

メイプルさんはきっと植物が専門だろう。

さらに推測するならばきっと彼らは結果を出す前は単なるビルでありエドワードでありギルバートでありレイチェルであったのだろう。

それを名前に残すほど冒険者にとって結果を出せたことは大きい、そう見るべきだろう。

ふむ、ならば名前でなく名字で呼んでも失礼には当たらないのではないだろうか。

よし、名前捨てよう

そんな後ろ向きな決意はさておいて。

ビル以外の三人はローブだった。

それなりにお金のかかった上等なローブ

無論明葉やビルに比べればずっと見劣りするのだが。

魔法使い、なのだろうか。

なにせ冒険者だ。そうであってもおかしくない。

「……どうかされましたか?」

そこで現実に引き戻された。

見れば目の前の四人はじっと明葉を見ている。

ここは謁見の間でも何でもないため五人は同じ高さの椅子を床において座っている。

明葉、というか器の江藤命はそこまで背が低い訳ではないが、それでも。

見下ろされる形になっている。

そういう仕込みなのだろうと思う。

思い返せば、冒険者側も明葉に対してどの程度の敬意を示すか戸惑っていたようだ。

つまりは。

敬意が欲しければその手で掴み取れと。

上等である。

「なんでもありませんよ。あなた方が責任者の方でよろしいのですね」

普通に敬語を使う。正しい敬語でも畏まった敬語でもなく明葉が普通に使う敬語。

ここで取り繕ったり演じたりするのは安部明葉のスタイルではない。

それはもっと後、相手が仕掛けてきてからでいい。

「はい、私が調査団総責任者、彼ら三名が現場責任者になります」

責任者が北限国家人間だということは覚えておく必要があるかもしれないと明葉は思う。

明らかに北方系の四人。

魔法鉄鋼王国にとっても外国人、なのだ。

「恐れながら」

エドワード・メイプルが口火を切った。

「王妹殿下にお訊きしたいことがございます」

穏やかな声だった。

そもそもが柔和な顔立ちの男であった。

今時は草食系とでも称すのかもしれない。

ダークグリーンのローブを着ている。

落ち着いた装飾の少ないローブ。

ふむ、何か仕掛けてくるようには見えないが。

明葉の人を見る目などあてにならない。が、さて。

「何でしょうか」

ここは乗るとしようか。

さて、どう出てくるか。

「王妹殿下は今回の調査についてどのようにお考えでしょうか」

漠然とした問いである。

ならば明葉はこう返そう。

「沢山の方々にご尽力いただき感謝しております」

「――まどろっこしいことは止めませんかね。勇者様」

横から口を挟んできたのはマップさんだった。

不敵な笑みを浮かべ挑発的に明葉を見ている。

そう、この男は「勇者様」と明葉を呼んだのだ。

よく見れば。

同年代とおぼしき四人のなかでも一際若い。

二十歳そこそこ、十代もあり得る。

真っ赤な、目の覚めるような赤色のローブを着ている。

四人のなかで一等粗末な、それでいて目を引く身形であった。

「腹を割って話しましょうや。勇者様。あんたの空っぽの頭ん中にも何かあるでしょうよ」

分かりやすい挑発だと思った。

どうするか。

薄く笑みを浮かべて明葉は考える。

無礼な発言者を寛大に許すように薄く笑う。

余裕の表れとしての笑み。

「……随分とまあ、余裕じゃないですかあ? 勇者様。ご存知ですよねえ? この調査団はあんたの名の元に組織されていることぐらいはあ?」

もちろん、知らない。

しかし、想定の内ではあった。何故明葉と彼らが会談する必要があるのかという問いに対する一つの答として持っていた。

故に余裕の笑みは崩さない。

「……ただの操り人形じゃねえってことですかい。ならばこそお聞かせ願えますかねえ? あんたの腹の底にあるものをねえ」

――頃合いだろう。

パチンと乾いた音がして藍色真珠が首から外れる。

明葉はそれを専用ポケットにしまってボタンを留める。

王妹殿下の時間は終わり。

――ここからは勇者の時間だ。


外国人の顔ってみんな同じに見えてしまう明葉。

会話は日本語で行われています。

四人とも日本語ペラペラです

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