「他薦です。自薦は受け付けてません」
勇者の資格とは?
「――ということになりました」
「ふむ、それはそれは」
六月十六日。土曜日。午後三時。勇者召喚の時間。
魔法鉄鋼王国先端科学大臣室。
いつもの場所。いつもの時間。
予定なら今日は数学をやるはずだったのだけど。
色々あってキャンセルとなった――らしい。
見ていたらしい。向こうでの明葉の騒動を。
だから、というわけではないようだが――。
「ふむ、まあ、良いでしょう。それはそれで。中卒でも死ぬわけじゃない。幸せに暮らしている方も沢山いらっしゃられるはずです」
「はあ、そうですか」
てっきり反対されると思っていた明葉は拍子抜けした。
両世界の架け橋となる人材がどーしたとか言っていたからきっと進学させたいんだろうと思っていたのだが。
「進学は必須ではありませんよ。両世界の架け橋となる人材としては。逆の見方をすれば余計なことに気を回さずに勇者業に専念出来るとも言えますからね」
明葉の心を読んだように公爵は言う。
さすがに、「勇者業に専念させられてしまうのですか。」「いえ、私は働くんですよ」とか。
そういうことを言ったらさようならなんだろうなということは明葉でもわかった。
代わりはいくらでもいるのだろう。
「もちろん、受かってくれるにこしたことはないですし全力でサポートさせていただきますよ」
にこにこ。
――怖い。
もしかして、怒っているのだろうか。
「――それより」
割って入ったのは江藤龍であった。
珍しい。いつもは壁に寄りかかって固まっているのに。
「額の傷はもう大丈夫ですか?」
「あ、もう瘡蓋になってるよ。縫うほどの怪我じゃなかったし」
「なるほど。少し治りが遅くなるかもしれません。お気をつけて」
堅苦しい話し方。仁ノ宮さんと一緒の所を保護しに来てくれた時はそんなんじゃなかったのに。
少し、寂しい。
「体調管理だけは気をつけてくださいね。真面目な話。少しでも危ないと思ったら回復するまで召喚は取り止めですよ」
公爵も言う。誰もが言う。くどいぐらいに。
心配のしすぎだと思うのだけど厚意はありがたくもらっておこう。
「さて、勇者の選定方法の話でしたね」
「………………ああ、確か先週そんな話を」
え、その話今するの的な明葉をほっといて公爵は続ける。
「結論から言ってしまえば我々は――あなたが小一からずっといじめられている事を知っていました」
「いじめられていることが条件、ってことですか?」
それはまた悪趣味な。
しかし、公爵は首を振る。
「むしろいじめられていない方がこちらとしては望ましいですね。こちらに逃げてきたいと言ったところでそれは叶わないのですから」
仁ノ宮さんの時の江藤蓮は個人的な暴走です。
公爵はそう言って肩をすくめる。
「じゃあ、どうやって決まるんですか」
「他薦です。自薦は受け付けてません」
たせん、という音が他薦という文字に結び付くのにしばらくかかった。
「……推薦ってことですか?」
「そうですね。元勇者――かつて勇者であった方々による推薦制です。これが一番安全で確実なのですよ」
なんと。斬新な。
しかしまあ、異世界から人を呼ぶわけだ。気心知れたこちらの内情をよくわかってる人物からの推薦が一番安全っちゃ安全なのかもしれない。
「ちなみに安部明葉さんには五名の方からの推薦がありました」
「そ、そんなに!?」
それじゃあまるで明葉の周りが勇者だらけみたいじゃないか。
「やはり、写真記憶というものには期待が持てるという意見が多数ですね。人格的にも面白いと。いじめられていることは大きなマイナス要因ですが、あの子なら大丈夫と太鼓判押して下さった方がおりましてね」
「まさかその人の名は高橋というんじゃ」
「違います」
ふむ、なんだろう。ほっとしたような寂しいような。
「基本的に推薦者名は非公開です。推薦を受けた当人にも教えられません」
「そうですか」
つまりは、明葉は誰だかわからないがかつて勇者だった五人に勇者になるべき人材と目されたわけである。
これはちょっと多いのではないだろうか?
そう言うと、
「五人というのは多い方ですね。運もあるのでしょうがやはり素質があると思って良いでしょう」
との答え。
勇者の素質か。
写真記憶だろうか。
そんな思考を読んだように公爵は言う。
「写真記憶というのもあるでしょうが三名の元勇者様が挙げたのが――精神力ですね」
精神力。心の力。そんなもの明葉にはない。
けれど公爵はまたしてもそんな思考を読んだように言う。
「曰く、柔軟であると。どんな理不尽にもすぐ馴染み日常の一コマとして消化すると。
曰く、頑強であると。どんな理不尽にたいしても己を見失わずただ歩み続けることが出来ると。
曰く、狡猾であると。どんな理不尽に対してもそれを逆に利用する手を考えると。
曰く、温厚であると。どんな理不尽にあおうとも慈愛の心を忘れないと。
そして、足して四で割って普通であると」
最後だけ心当たりがあった。
「……普通ですか」
「まあ、普通ですね。勇者としては普通です。一般的には結構変わった子だと思います。まず、異性に人気がある方ではないでしょう」
「最後の余計じゃないですか!?」
余計な一言だし余計なお世話だ。
安部明葉、失恋中である。
「失言でした。取り消しましょう。しかしまあ、理不尽に強いというのは勇者としては優秀ですね」
「そうなのですか」
「異なる世界異なる文化というのは基本的に理不尽なのですよ。理不尽に弱いというのは異世界に耐えられないということを意味しますからね」
世界は理不尽だ。異世界ともなれば尚更。
「さて、そんな理不尽に強い明葉さんにお仕事です。明日の召喚では冒険者の方と面談していただきます」
「冒険者?」
「最高に理不尽に強い理不尽の権化ですよ。明葉さんには王妹殿下として冒険者ビル・ゴールド氏以下三名に会っていただきます」
「わかりました」
こうして安部明葉は冒険者に会うことになった。
冒険者が出てまいりました。冒険者と言えば北限国家。
北限国家からやって来た彼らは何をするのか?




