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「――彼女、どうでしょうか」

さてはて、明葉の秘密兵器とは……?

六月十三日。水曜日。放課後。

いつもは真っ直ぐ帰宅する明葉は今日に限って教室にいた。

まだ、多くの生徒が教室に残っている。

これで良い。秘密兵器の効果はこの方が高い。

明葉は机を見る。彫刻刀で「死ね」と刻まれた机。

遠藤さんではない。数名の男子が面白がってやったものだ。

思い出す。教科書を捨てられたこと。プールに突き落とされたこと。靴を壊されたこと。服を切り裂かれたこと。

色々あったが、それでも明葉はこのクラスが好きだった。

願わくば、誰一人罰されることなくこの一件を終わらせたかった。曖昧に、うやむやに、誰が悪かったのか明らかにせずに終わらせたかった。

誰が悪いと言うのなら明葉が一番悪いのだ。

だからこれは、つまらない自己保身である。

がらり、と扉が開く。

現れたのは赤く紅く朱い天才。

仁ノ宮愛。


ざわめく。どよめく。

そして彼女はその一切を無視して明葉の方に歩いてきた。

「――なあに。こんなところに呼びつけて。何か面白いものでもあるの?」

良い声だと思った。伸びやかで奔放で。

その声だけでざわめきがぴたりと止まった。

「――彼女、どうでしょうか」

明葉は指す。その人差し指の先にいるのは遠藤雪菜。

「――ふうん」

仁ノ宮愛はつかつかと遠藤さんに歩み寄って足を止めた。

両者の距離わずかに30センチほど。

そこからさらに仁ノ宮愛は遠藤雪菜の顔を覗き込む。

鼻と鼻が触れあうんじゃないかという至近距離。

驚いて声もない遠藤さん。

明葉は両者を冷静に観察する。

遠藤雪菜はクラス一の、いや学年一の美少女だ。

それでも。

仁ノ宮愛の前では軽く霞む。

インパクトが違う。

規格外の赤い髪。

完璧なボディライン。

仁ノ宮愛の完成度の前では遠藤雪菜などただの石ころである。

磨けば光るのかもしれないが、明葉にはそれは分からない。

「――良いんじゃない」

唐突にそう言って仁ノ宮さんは明葉を振り返った。

「良いわよ。この子劇団小宇宙に紹介してあげる。そこから先は本人次第だけど。それで良いでしょ」

「結構。それで構いませんね。遠藤さん?」

何が何だか分からないという顔をした遠藤さんはそれでも確かに頷いて。

「じゃ、早速押し掛けるわよ。明葉もついてきなさい」

そのまま扉へと歩く仁ノ宮さんの背を明葉は追いかけて、とその前に。

遠藤さんの手を掴んだ。

「行きますよ。遠藤さん」

「あ、うん」

いまだ状況が飲み込めてない遠藤さんを引っ張って、今度こそ扉に向かう。

魔法が解けたようにざわつき出す教室は無視。

秘密兵器大作戦、成功。


なんだかんだ言って仁ノ宮さんは付き合いが良いのです

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