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「おいおい、素足かよ」

女子会打ち合わせという名の勇者召喚が行われたのは二十七日のことである。

魔法鉄鋼王国王城謁見の間である。

赤い絨毯。その先には三段の段差。その上に王座。

絵に書いたような謁見の間であった。

ただひとつおかしな所があるとすれば赤絨毯の上に置かれた椅子であった。

王座と向かい合う椅子である。

王座ほどでもないがなかなかに豪勢な椅子である。

磨きあげられ繊細な彫刻が施され、足は優雅な猫足で。

背と座面には赤いビロードらしき布がクッションになっている椅子である。

そして何より勇者安部明葉が座る椅子であった。

すうっと背筋を伸ばして安部明葉は座っていた。

真っ黒な魔法使いのローブ。

首から下げられた銀のペンダント。

ダークブラウンの髪と目。

ローブの裾からふくらはぎが覗いていて。

安部明葉は素足であった。


ここ一月ほど勇者をして安部明葉が分かったことは、どうやら「勇者」は人間扱いされていないということだった。

「勇者」とは魔法界――彼らはこちら側をこう呼ぶ――の人にとっては人じゃないのだ。

器に降りてくるだけの幽霊のようなもので、

礼儀を求める対象ではないし、

罰を与える対象ではないし、

権利を認める対象ではないのだ。


故に。


謁見の間に椅子を持ち込もうと、

そこに素足で腰掛けようと、

その非礼を咎めたり罰したりするものは誰もいない。

むしろ。

皆それで当然というような、それでこそ勇者であると納得しているような、そういう表情であった。

ここにいるのがあまり頭がよろしくなくて空気が読めなくて人を見る目がない安部明葉だからそれをなんとも思っていないが、ちょっと賢いものなら気分を悪くするようなそんな空気であった。

――いや、一人だけ。

「おいおい、素足かよ」というような実に面白いものを見たように笑っていた。

魔法鉄鋼王国第三代国王ゲオルグ三世である。

玉座の男である。

すなわち明葉の目の前の男だ。

若い。

二十代の半ば辺りか。

叔父である公爵を若くして若干頭悪そうにしたような金髪碧眼の美形である。

実際。

賢王ではないと聞いている。

武勇に優れているわけでもないと。

もうそれだけで親近感を持ってしまう明葉である。

男は。

国王は。

口を開く。


「魔法使いのブーツは固すぎたか?」

「はい」


――これが、今回の謁見における賢くない二人の最初のやり取りであった。


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