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「……苦労したなあお前」

明葉の歪みが顕著に出てきます。

「――そんなことがあったのか」

「あったんです」

「あった」

話を聞いて高橋先生は大きく頷いた。

「なるほどなるほど。それならお前らが仲良いのも納得できるなあ」

「ずっと公演とか見にきてくれて応援してくれたし」

「夏休みとか一緒に出かけたりもしたんですよ」

「……ってなあ! そこまで仲良くなってなんでいじめが終わらない! 普通に仲良くすれば良いだろう!」

「――ダメなんですよ」

明葉は静かに首を振る。

そう。物事はそう簡単にはいかない。

「それじゃあ、遠藤さんがいじめられちゃうじゃないですか」

高橋先生はそこで息を飲む。

驚いたようだ。

――その事に思い至らなかったから驚いたのか。

それとも。

――いじめられた側がいじめる側を案じた事に驚いたのか。

明葉には分からなかった。

「安部……、じゃあお前は遠藤をかばって遠藤にいじめられてたのか」

「はい。遠藤さんに『いじめてください』って頼んで」

「……うん。明葉に『いじめてください』って頼まれて……」

唖然、とした顔。

思いもよらなかったらしい。

「……いや、それなら遠藤。やりすぎだろう。安部に怪我までさせて……」

「……だって」

遠藤さんは俯いた。

「明葉、あたしになんにも言わずに薙高受けるとか言い出すから裏切られたと思ってすごいショックでついカッとなっちゃって」

「遠藤さん、カッとなると口悪いし、あと男子はとりあえずノッてくるんで」

「で、ちょいちょい大惨事かよ……」

明葉と遠藤さんは揃って頷いた。

「……マジで時々自分でも無いわーって思う。…………でも今回のはホントにショックだったから。」

明葉が遠くに行っちゃうって思ったらパニックになって……と遠藤さんは涙ぐむ。

今度は演技ではない。

「いや、大丈夫だよ? これくらい全然平気だし。こっちこそごめんね? 勝手に志望校決めて……」

「……安部なあ。お前がそうやって甘やかすからいつまでたっても遠藤がいじめっ子なんだろうが……」

む、平気だと言っているのに。

ちょっと骨が折れるぐらいなんだというのか。

「……明葉いなくなったら私一人になっちゃう、友達いなくなっちゃう、そう思ったら……」

「あ、もう教科書さえ買ってくれれば全部OKなんで」

遠藤さんと高橋先生は顔を見合わせて――はあ、とため息をつく。

「だから甘やかすなって。安部も言いたいこと言って良いんだぞ?」

「明葉、いつもそう。たまには怒ってくれても良いのに……。親友だと思ってるのは私だけなの?」

「言いたいことなんかないですよ。怒るようなことされてないですし。ふふ、遠藤さんの親友なんて光栄ですね」

「……遠藤、お前のしたことは許される事ではないが、お前も大変だったんだな……」

「……マジで泣きたかった」

……なぜ、こういう流れになるのだろうか。

怒ってないと言っておろうに。

友達のしたことだ。子供のしたことだ。笑って許すのが筋だろうに。

「安部、悪いことしたら止めるのも友情だぞ?」

「悪いこと、ですか?」

「……良いか、傷害と器物破損は犯罪だぞ」

「まあ、そんな固いこと言わずに。子供のしたことじゃないですか」

「……遠藤、コイツずーっとこうだったのか?」

「うん」

「……苦労したなあお前」

「うん」

……なぜか遠藤さんと高橋先生が通じあっている。

うーん。何故だろう。

明葉は悪は許したいタイプだ。

怒りたくない。

傷は治る。物は買える。金は稼げる。

取り返しのつかないことなんて世の中そうそう無いだろうと思う。

殺されたら、それは怒るかもしれないがその時明葉は死んでいる訳だし。

どうでも良いかなとも思う。

「……よく、分からないですけど。いじめをやめれば良いんですか?」

「分からないって……お前なあ。って、やめられるのか?」

ふふん。

明葉は自慢げに胸を張る。

「私だって成長してるんですよ。秘密兵器があるんです」


罪に許しを。両者に和解を……。

という難しい話ではなくただ明葉が雪菜を罰したくないだけなのです。

明葉なりに雪菜を守りたかっただけなのです。


自分がどうなっても良かった。

自分なんてどうなっても良かった。

どうせ――

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