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「――そんなことないっ!」

自分に未来がないことは分かっていた。

あの女の思惑通り十五で死ぬ。

そう思っていた。

ドスッ。

蹴られた。

既に明葉は頭を守る格好で体を丸めてうずくまっている。

「うぜーんだよ!」

ドカッ!

主体となる攻撃は蹴りである。

少女の柔らかな拳では自分達の方が傷ついてしまう可能性があることを既に彼女たちは学習していた。

「雪菜に取り入ってどうするつもりだったわけ~?」

「うちらの仲間にでも入る気だったとか~? マジキモいんだけど」

「雪菜があんたみたいの相手にするわけがないじゃん。そんな事もわかんないの~?」

蹴られながら。

明葉は考える。

これからどうなるのかと。

屋上には武器となるような物がない。

殴るか蹴るかそれぐらいしか出来ない。

それで飽きたらなくなった場合、どうするのか。

屋上は二メートルを越えるフェンスで囲まれている。

そこから人一人突き落とすのは骨だ。

取り巻きは三人。相沢花音、佐藤樹里、田中美空。

三人とも身体能力に秀でているわけではない。

三人がかりでも明葉を屋上から突き落とす事はできないだろう。

とすると。

――階段か。

屋上から階段に戻りそこから突き落とす。

ふむ。

殴られ蹴られするのは確かに痛いが所詮は少女の力。

死ぬことはない。

階段からの突き落としも今まで何度経験している。当たり所さえ注意しておけば死なない。

つまりは、何も問題はない。

そう結論付けて明葉は一安心した。

大丈夫。何も問題はない。

その明葉の態度に焦れてきたのは三人の方が早かった。

「……何とか言ったらどうなんだよっ!」

ドカッ!

「マジうぜー……」

ドスッ!

「てか、雪菜遅くない~?」

え、と思った。

来るのか、遠藤さん。

てっきりもう来ないものだと。

「あれでしょ、雪菜、劇団の用事ってやつでしょ」

と、相沢さん。

「雪菜マジだからね~。マジ付き合い悪いし」

と、佐藤さん。

「マジになったって意味なんかねーっての。雪菜マジ頭わるーい」

そして、田中さんがそう言って。

明葉は、叫んだ。

「――そんなことないっ!」

防御も忘れて。顔をあげて。自分でも驚くくらいの大声で。

力の限り、叫んだ。

「遠藤さんならきっと女優さんになれるっ! 絶対スゴい女優さんになれるっ!」

ああ、と明葉は思った。

ずっと信じていたんだ。きっとそれだけは。

どれだけいじめられてもそれだけは。

きっとそれが支えになっていた。

たった一つの小さな憧れ。

それがいつだって明葉の中で遠藤雪菜を遠藤雪菜足らしめていた。

憎むべき敵ではなく机を並べる学友だと。

単なる障害ではなく一人の夢見る少女だと。

恐ろしい暴力装置ではなく一個の努力する人間だと。

信じて、こられたんだ。

仲良く、なれるはずだって。

言葉は、通じるはずだって。

思いは、届くはずだって。

「……っばっかじゃねーの」

田中さんがそう言って拳を振り上げて。

「叶うわけないじゃん。女優とか」

佐藤さんがそう冷笑して。

「そこまでして雪菜に取り入りたいとかウケるんですけど~」

相沢さんが嘲笑って。

その時。

がちゃりと屋上の扉が開いた。

相沢花音の、

佐藤樹里の、

田中美空の、

安部明葉の、

その視線を一身に受けて、遠藤雪菜がそこにいた。

「……帰るわよ」

「ち、違うの雪菜! あたしたちそんなつもりじゃ」

「雪菜、こんなやつの言うこと信じたりしないよね?」

「うちら友達だよね? 信じてくれるよね?」

「――帰るわよ」

口々に言い募る田中さんたちを尻目に遠藤さんはそう言って背を向けた。

「ま、待ってよ……」

その後を追いかける田中さんたちを明葉は茫然と見つめていた。

――これからどうなるんだろう。

明葉には分からなかった。


叶えて欲しかった。

未来のない自分の代わりに。

その先の未来を紡いで欲しかった。


――ううん。そんな難しいことじゃない。

まぶしい笑顔に。通る声に。垢抜けた美貌に。

ただ憧れた。それだけ。

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