二人は。
「……遠藤。お前自分が何したか分かっているのか」
射殺すような目で睨み付ける高橋先生の低い声を遠藤さんは完全に無視した。
「ごめんね……。痛かったよね」
遠藤さんは痛ましげな表情で明葉の頭の包帯に触れる。
その目から一つ、また一つと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……さすが、女優志望は演技がうめえな」
「あ、遠藤さん。そういうの良いんで」
名演技、ではあったが。
さすがに九年来の付き合いである。
高橋先生は最初から疑ってたのだろう。
遠藤さんは涙を拭う。
「…………ホントに薙高行くの?」
「そのつもりです」
「一緒に北高行ってくれないんだ……。離れ離れになっちゃうんだ……」
「遠藤さんこそ――鳳高校行かないのですか」
「私が? ……普通科に?」
「芸能科です。私は信じてますよ。いつもどんな時だって」
「お前ら……!」
突如始まる二人の世界にキレる高橋先生。
明葉と遠藤さんの間に無理矢理入り込んで引き剥がすと別々の椅子に座らせた。
「遠藤! お前高校に行ってまで安部をいじめたいのか!!」
「違う! 私はただ一緒の高校行きたくて!」
「まあ、私はそもそも高校受ける気なんてなかったんですけどね。中卒でネットカフェ難民になる予定でした」
だんっと机を叩く高橋先生。
怒ってるなあ……。
「良いか、遠藤。金輪際安部には近づくなよ」
「嫌です」
「嫌です」
ピタリと声が揃った。あるいは思いも。
「何なんだよお前ら……」
がくりと肩を落とす高橋先生。
「遠藤が安部をいじめてるんじゃなかったのか? 昨日はそれであんなことになったじゃないのか?」
「合ってますよ。私いじめられてます」
「私いじめてる……」
明葉と遠藤さんは頷き合う。
それは事実だ。間違いない。
高橋先生の理解であってる。
「だったら、なんでお前らそんなに――仲良いんだよ」
理不尽を咎めるような声だった。
確かに理不尽きわまりないだろう。
だけれども。
「いじめる方が望んでないから、いじめられる方が望んでないから、まわりのみんなが望んでないから。そんな理由でいじめがなくなるんなら――この世にいじめなんてありませんよ」
「そんなわけないだろう!」
高橋先生は叫ぶ。理不尽に屈さぬように。
けれども。
「さっき、言ったではないですか。金輪際近づくなと」
仲良くしてはいけないと。
その口で。
「それは、お前がいじめられてると思ったからで……」
「いじめられてるから、仲良くしてはいけませんか? いじめっ子は誰とも仲良くしてはいけませんか? いじめられっ子は誰とも仲良くしてはいけませんか?」
だったら――いじめなんてなくなるわけがないだろう。
「……なんで、そんなおかしな事が出来る。友達なら普通に仲良くすれば良いだろう」
「普通に仲良くして、それで先生は納得しますか? 遠藤さんを罰するまで納得しないんじゃないですか? ――遠藤さんがいじめられるまで納得しないんじゃないですか?」
悪には罰を。それはとても正しいのだけど。
その考え方、明葉は大嫌いだ。
「……明葉は悪くないよ。結局私の保身みたいなものだし」
「だったら、遠藤さんだって悪くない。全ては私の保身みたいなものです」
窓の外を見ながら呟く遠藤さん。
高橋先生に宣言する明葉。
いじめられる方いじめる方という違いはあれど――それでも。
二人は。
「……何があったんだよお前らに」
「だって、仕方ないじゃない。あんなこと言われたらさ」
「私はずっと信じてました。今も信じてます。それだけです」
「だからっ!」
困惑を越えて焦燥の表情で高橋先生は叫ぶ。
まったく。
学校は叫ぶ所ではないと教えてやろうか。
「――昔、さ。小三ぐらいの時。屋上でさ明葉をいじめさせた事があって。もちろんその頃は普通にいじめてたんだけど――」
それが、すべてのターニングポイント。
小三のあの日、遠藤さんは屋上に来なかった。
代わりに来たのは遠藤さんの取り巻き。
そこから事態は大きく動いた。
遺恨なく決着をつけるのはとても難しい。
お互いが望んでなくても周りが望んでなくとも
――正義はそれを許さない。




