「まあ、大したことじゃありませんし」
徐々に明葉の歪みが現れてきます。
六月十二日。火曜日。放課後。進路資料室。
「――すまなかった」
「いや、別に良いんですけど」
高橋先生は明葉が入ってくるなり頭を下げた。
「お前のクラスがあんなことになっているのは分かっていたのに……。俺の認識が足りなかった」
あんなことに、なっていたのか。
そういう認識だったのか。
「まあ、大したことじゃありませんし」
「大したことだろうが。器物損壊と傷害だぞ?」
「まあ、事を荒立てたくないのは先生方も同じでしょうし。ここはひとつ穏便に行きましょうよ」
「穏便にってなあ……」
「嫌なんですよ。いじめられたからいじめかえそうというのは。いじめなんてする子には何をしても良いんだみたいのは」
その方がよっぽどいじめだと思うんですよね。
そう呟いて明葉は窓の方を見た。
校庭ではサッカー部がサッカーをしている。
明葉はサッカー部員にも殴られたことがあるが、それで今校庭で頑張っていることを否定したくはなかった。
「……報復でも恐れてるのか? あるいは脅迫でもされているのか? だったら俺が守るから――」
「そういうことじゃ無いんですって。こうちょっとシカトとかがあるからって『いじめのあるクラス』みたいに見るのやめましょうよ。みんな仲良しですよ」
高橋先生の台詞を遮って明葉は言う。
なんでこの人はこんなに喧嘩腰なんだろうか。
遠藤さんに鉄拳制裁でもしたいんだろうか。
そんなこと明葉は許さない。
「ちょっと落ち着きましょうよ。私と遠藤さんがちょっとケンカしちゃっただけじゃないですか。不幸にも物的人的被害が出てしまっただけで。そこまで怒るようなことではないでしょう? 子供のしたことじゃないですか」
「……これが初めてじゃあねえだろう。入学当時から度々問題になってるんだぞ。もういい加減見て見ぬふりはできねえ」
「そんなこと今更言われても……。小学校の入学式の翌日にはああでしたもん。それをおかしいと言われてもこっちだって困るんですよ」
絶句する高橋先生。
メンバーの入れ換えのない持ち上がりの公立校。
歪みが歪みのまま持ち上がって来てもおかしくはなかった。
とそこで。
扉をノックする音。
「どうぞー」
僅かな躊躇いの後、扉を開いたのは――。
「明葉、いる?」
不安げな顔をした遠藤雪菜だった。




