「……十点。まあ、こんなものですか」
「……十点。まあ、こんなものですか」
真っ白に燃え尽きた明葉を横目に公爵は冷徹に言う。
鬼か。あんたは。
いきなり過去問とか解けるかっ!
今回の教科は国語。
すなわち。
「まあ、十点っていっても解けたの漢字問題だけですからね。読解は一問も解けず。後半三問に至っては白紙ですか」
ということである。
制限時間一時間。文を読むだけで精一杯だった。
慣れたシャープペンじゃなく万年筆だったのも原因である。書き消し出来ない一発勝負とかなにそれ怖すぎるんですけど。
というか、あるんだ。万年筆。まあ、時計もあるわけだしそりゃあるか。
「……しかし、逆に言えば漢字問題は全問正解ですね。この難易度なら問題ない、ということですか……」
「……私漢検一級持ってる」
正直、覚えるだけで良いと言うのなら明葉の敵ではない。問題はその先。
「ならば、読解に集中しましょう。正直、わかりもしないものをいくら覚えても無駄ですから。まずは各教科の基礎となる読解力を身につけましょう」
うっすらと浮かんだ笑みが怖い。
ちなみに兄様は「さっさと仕事に戻りなさい」ということで今いない。
きっと馬車馬のごとく働かされているに違いない。
「帰ったら薙高過去問集を買っておくのは常識として、向こうでもキチンと勉強してくださいね。こちらでやれることには限界がありますから」
さくりと釘を刺し、公爵は授業を始める。
「主語はわかりますか?」
「文の主体となる部分。『何が』のところ」
「では、述語は?」
「『どうした』のところ。文の……えーとなんだろうわかんない」
「接続詞は?」
「『しかし』『たとえば』『なぜなら』。文と文をつなぐ言葉」
「十分です」
きっぱりと公爵は言った。
「文は主部と述部からなり、接続詞によってつながっている。それだけ分かれば十分です。」
全ては、それだけ。
くすりと笑って公爵は言う。
「この文の骨格を頭に入れること、それが第一歩です。さっそくやってみましょう」
公爵は新しい紙を取り出した。薄く罫線が入った紙。流石にB5サイズとはいかないしなんだか紙質も厚くて違うけど、レポート用紙だった。
何でもあるんだ。流石、高校受験から就職試験までトータルにサポートする異世界、魔法鉄鋼王国である。
「まず『ペットとは何だろうか。』この文を書いてみましょう」
「……なんでそんな」
「書いてみましょう」
「書きます!」
公爵の笑顔に妙なプレッシャーを感じた明葉は慌てて万年筆をとった。
間違えないようにゆっくりと丁寧に最初の一文を書き写す。
「さあ、次に『例えば』です。このあとに来るのは?」
「例示です! 『犬を飼う人がいる。猫を飼う人がいる。鳥を飼う人がいる。』の三文がペットの例です!」
「ではそのように書いてください」
「はい!」
明葉、とても良い返事。
だって、公爵が怖い。笑ってるのになんか怖い。
指導力とは恐怖のことであったか。
そして恐怖の熱血指導の続くこと一時間。
「できました~」
「良くできました。つまり、この文で筆者が言いたいことは?」
「えっと、『その命に責任が持てないなら飼うべきでない』です」
「はい、正解ですね。まあ、時間はこの際かかっても良いとしましょう。まだ、焦る時期でもありませんしね」
公爵はさらりと明葉の頭を撫でた。
そのあとで釘を刺すのも忘れない。
「ちゃんと家で復習するんですよ。そこでサボったら何にもなりませんからね」
「分かりました……」
本気なんだなあ……。明葉は思う。
公爵は本気で明葉を薙高に送り込む気なのだ。
考えてみれば奇妙な話。なぜ明葉なのか。なぜ薙高なのか。なぜ進学なのか。
高校受験から就職試験までトータルにサポートする異世界、魔法鉄鋼王国はどうして生まれたのか。
見上げた視線が公爵と合う。
「……どうしました?」
「……どうして、私なんですか」
誰でも良かったのだろうとは思うのだけど。それでも。なぜ明葉なのか。
それは、ずっと疑問だった。
確かに明葉には写真記憶があるけれども、今までそれを使って何かしろと言われたことはなかった。
だったら、他の子でも良かったんじゃないか?
「……今日はもう遅いですね。その話は来週の過去問の点が良かったらということにしましょうか」
「な、何点以上ですか?」
「零点以上で結構ですよ。その代わり教科は数学です」
「す、数学……」
薙高の数学――一点も取れないことも珍しくないという難関である。
「大丈夫ですよ」
公爵は言う。どこか遠くを見る目だった。
「そうですね……。そろそろお話しする頃合いなのでしょうね。勇者がいかにして選ばれるのか」
遠くを見たまま公爵は言った。遠い遠い昔を思い返している目だった。
いかにして勇者は選ばれるのか?
の前に学校編です。
雪菜が出てきます。
良い子なんです。可愛がってあげてください




