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「切り札を用意したのがそっちだけだと思わないでちょうだい」

六月三日。日曜日。午後三時。魔法鉄鋼王国先端科学大臣室。

あらかじめ決めておいた通り一回安部家に集まってからの異世界召喚である。

今回の召喚は三人。

魔法鉄鋼王国勇者、安部明葉。

神聖王国勇者、仁ノ宮愛。

その保護者兼マネージャー、新見光。

以上三名。

「ようこそおいでくださいました。仁ノ宮様、新見様」

「よろしく~」

「……よろしくお願いします」

公爵はニコニコと穏和そうに笑っている。

仁ノ宮さんは艶然と挑発的に笑い、新見さんは不満げに公爵を睨み付けている。

明葉は一人部屋の隅で大人しくしていた。

「仁ノ宮さんは何故勇者に?」

「あら。まるで勇者になっちゃいけないみたいな言い方ね」

「いえいえ。ただご多忙の中勇者を続けていくのは大変ではないかと」

ニコニコ。ニコニコ。

怖い。

片隅でブルブル震えている明葉に二人とも構わない。

「……あの子だって暇ではないでしょう?」

「そこはもう全力でサポートさせていただきますとも。勇者様にご迷惑はおかけしません」

「……ずいぶんとまあ、調子のいいことを言うのね」

「事実でございますので。勇者様につきましては高校受験、大学受験、大学院受験、さらには就職までトータルにサポートさせていただくつもりですので」

え。

明葉聞いてない。

え。え。え。

大学院とか聞いてないんですけど。

「あの子にそれだけの価値があると? 随分と高く評価するのね」

「十年召喚して元が取れない人材の方が珍しいですな」

十年。

マジですか。

十年たったら明葉二十四である。大人である。成人である。

え。そんな長期計画だったんですか。

「……すっごい驚いてるけど」

「はじめて言いましたからね」

このタイミングではじめて言わないで欲しい。

死ぬほど驚いた。

「……強引な手を使うじゃないの」

「無論、お嫌でしたらお好きな時までで結構ですし。こういうのは辞めたい時に辞められるのが一番です」

「都合の良い話ね。何か裏があるとしか思えない」

「勇者召喚とは」

公爵は言う。その目に決意を込めて。

「勇者様の幸せが第一です」

明葉は思わず息を飲んだ。

その言葉に本気の覚悟が宿っているような気がしたから。

「……ふうん。それで彼女に何をやらせる気?」

「成長の糧となる体験を色々とさせてあげたいと思いますよ」

「答えになってないわ」

私は何をやらせるのかと聞いたのだけれど。

言葉とは裏腹に興味の無さそうな仁ノ宮さん。

「勇者を呼んで何かをしてもらう――その勇者観はもう古いのです。今は勇者を呼んで何かをしてあげる時代ですよ」

「……どういう意味かしら」

どういう意味だろう。明葉にもよくわからない。

「確かに過去には勇者様のもたらしてくれる知識技術が大きな革新をもたらしてくれていたのです。しかし、近年こちら側の技術水準知識水準が向上したことにより十分な成果が上がらなくなってきました」

「だから止めようとかそういう話?」

「いえ」

ゆっくりと公爵は首を横に振る。

「我々といたしましては両世界の関係は次のステージに進むべきであると考えます。すなわち正式に国交を樹立し、正式な外交使節を立てるべきであると」

「……っ!」

驚いた。

仁ノ宮さんも驚いただろうが明葉はもっと驚いた。

本気、なのだろうとは思っていた。

大真面目に一生懸命だとは思っていた。

だけど、ここまでとは思わなかった――!

「……いつ頃になるのかしら」

「三十年。それが一つ目標となります。それまでには両世界の外交を成立させようと。ああ、これには神聖王国も同意していますよ?」

「……いつの間に」

「あなた方が女子会を楽しんでいる間ですな。平和条約を締結する際に共同声明を発表しまして」

マジかよ。

三十年後。明葉四十四歳。その頃には異世界当たり前になっているのか。

世の中ってスゴいわあ。

「それを受けて勇者召喚の役割も変化しました。すなわち両世界の架け橋となる人材の育成へと。安部明葉さんにはその際の友好使節の役割を担っていただきたい。その為に今はしっかりと実力をつけ見聞を広めていただこうと思っております。」

「……そう、なの」

いきなり、そんなこと言われても困るんだが。

滅茶苦茶重要任務じゃないか!

昨日バイト感覚部活感覚で良いって言ってたのに!

「言いたいのは――事は既にそこまで進行しているということです。我々としてはあなたの勝手な振る舞いを許すわけにも、学術科学都市の勝手な振るまいを許すわけにもいかない。事は外交問題にまで発展する可能性があります」

「……私にどうしろって言うの。私が学術科学都市を焚き付けてる訳じゃない」

「留学はいかがでしょう。国外なら安全性は跳ね上がる。クラシックに携わるものとしては一度くらい本場で学んでみたいものではないですか? 実力的にもタイミング的にも問題は無いでしょう?」

高校三年生だ。

大学から留学してもおかしくはない。

「……つまりそこで手打ちってわけね」

「ご理解いただけたようで」

そこで、仁ノ宮さんは妖艶に笑う。

「だが、断る」

「ほう……」

「切り札を用意したのがそっちだけだと思わないでちょうだい」

「ほう……?」

一瞬視線は交錯し青白い火花を散らす。

「私は、魔法が使える」

「存じ上げております」

「私の父も魔法が使えたはず」

「……それが、あなたの切り札」

ゆるりと仁ノ宮さんは首を振った。

「私の父は十才で島根県内の児童養護施設に保護されてから今に至るまでその出自の一切がわかっていない」

「……そうでしたな」

調べたのか、と明葉は思う。

どうにも魔法鉄鋼王国は勇者について詳しすぎる。

何か調べる方法を持っているのだろう。

「私の父親が――よ。こんなおいしいネタ誰も調べなかった訳がない。勿論私も調べたわ。結構な額つぎ込んでね」

「……ほう」

「出てこなかった。何一つね。仁ノ宮進は十才のある日忽然と島根に現れたみたいに」

「……何をおっしゃりたいのです?」

「不可能なのかしら。本当に。物質が世界を飛び越えるということは」

ぎろり。

眼光が矢のように飛んでくる。

放ったのは江藤蓮。

魔法理論と魔法技術の最高峰。

しかし、彼は口を開かない。その鋭き眼光で仁ノ宮愛を睨み付けるのみ。

「……つまり、あなたのお父様は界を越えてやって来たものであり、元々はこちらの生まれではないかとおっしゃっている?」

「その通りよ」

はい?

明葉、ついてけない。

え、実はもう世界間転送は始まっていたとかそういう話ですか?

「……あなたのお父様が魔法を使えたという確たる証拠はあるのですか?」

「神聖王国に聞いてちょうだい。奴等は二十年前から私の父親を追っかけてたそうだから」

「……っ! 建国当時からですか!」

仁ノ宮さんはうっすらと笑う。

炎のような、氷のような笑み。

「もし、本当に物質転送を可能とした者がいるのなら、それは捨て置ける問題では無いでしょう? あなた方の外交政策とやらにも支障をきたすのではないかしらね。私は調査が必要であると思うわよ」

「……なるほど、それがあなたの切り札と言うわけですか」

「そうよ」

明葉は頭を整理する。

公爵は両世界の間で外交を成立させたい。

仁ノ宮さんのお父さんはこっちで生まれたかも知れなくて、仁ノ宮さんは真偽を調べたい。

うーん。これは。

お互いに譲歩しつつまとまりそうだぞ……。

その時、響いたのは笑い声だった。

「くはははははははははっ!」

人を見下した高笑い。

声の主は江藤蓮。七国最高の魔法使い。

「面白い! 面白い! 面白い! どうだ、仁ノ宮――世界を越えてみる気はないか?」

明葉の知らない江藤蓮がいた。

いつもの影のように物静かなまさしく背景と一体化している江藤蓮とは違う。

これが最高の魔法使いのその本性。

「……出来るというのかしら。あなたにそれが」

「同意する実験体さえいれば。無論命は賭けてもらうがな」

「……成功させる気はあって?」

くつくつくつ。

愉快そうに愉快そうに江藤蓮は笑う。

「させるとも。如何なる犠牲を払ってでも」

狂喜に歪んだ笑顔。

醜悪だがどこか子供のような。

「こちらに移り住みたくはないか、仁ノ宮愛。お前の父親が生まれた世界に」

ここなら誰もお前が魔法を使える事についてとやかく言われる事はないぞ?

悪い魔法使いが姫に言う。

誘うように。惑わすように。

仁ノ宮愛は躊躇いながらも口を開き――。


「――くっっっだらねえ」


そして、騎士は立ち上がる。

すべての惑いを躊躇いを裁ち切るように今の今まで無言を通してきた騎士は声をあげた。

「くだらねえ。そんなこと気にしてこんな奴らと関わったのかよ」

「く、くだらなくはないでしょう。私の父親が魔法を使えたってことは私の子が魔法を使えてもおかしくはないわけで……」

「それがくだらねえって言ってんだよ!」

「重要なことでしょう! 相手の方だってそんなの嫌がるだろうし……」

騎士は姫の両肩を掴んで自分の方に向けさせる。

強引な、それでいて優しい手。

「安心しろ」

「な、何がよ」

狼狽える仁ノ宮さんを真っ直ぐ見つめて新見さんは断言した。


「俺は気にしない。お前が誰の子であろうとどんな子を生もうと」


そう言って新見光は仁ノ宮愛を抱きしめる。

「……何を言ってるの?」

「結婚してくれ」

「…………………………何を言ってるのよあなたはっ!」


それは、この場にいる全員の気持ちであった。

それをここで言うか。

よりにもよって他人の体で。

だがしかし。


「いやか?」

「い、イヤじゃないけど……」


仁ノ宮愛。満更でもない感じであった。

というか、頬を染めて俯いたその姿は好きな人に告白された少女以外の何かではなかった。

マジですか。

いや、そりゃ怪しいとは思ってましたけど。

この状況でオーケーしちゃいますか。

世の中びっくりすることだらけである。

「おい」

「……何でしょう」

新見さんは背後の江藤蓮を指す。

「これを引かせろ。愛にその気はねえ。無論只とは言わねえ。金輪際愛に関わらんと言うなら――留学の件受けてやる」

「ちょ、ちょっと!」

何を勝手にと憤る仁ノ宮さんに新見さんはニヤリと笑った。

「ちょっと長めのハネムーンだ。悪くねえだろう?」

「~~~っ!」

二ノ宮さん、真っ赤。

「……聞いたでしょう。最早その子はあなたの求める実験体ではありませんよ」

「……ッチ」

舌打ち。

憎々しげな顔で新見さんを睨み付ける江藤蓮はやっぱり明葉の知らない人だった。

「……金輪際は保証の限りではないですが神聖王国に通達を送りましょう。仁ノ宮愛の勇者解任と学術科学都市への経済封鎖について」

「……良いだろう。何か連絡があればコイツに言え」

と、新見さんが指したのは安部明葉。

はい?

私もう辞めようかと思ったんですが?

要は、あれですか。辞めるなと?

…………………………。

ふーざーけーるーなー!

自分の彼女じゃないからってこの仕打ち!

誰がやるかあ! バカ野郎!

「……よろしいですか?」

「毎週電話してやるからさあ。頼むよ」

「やりましょう。任せてください」

……バカは明葉のほうだった。


はい、明葉失恋です。

しかも相手に恋心を利用されるという……。

ま、世の中そんなもんです。

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