「仁ノ宮愛だけど」
五月二十七日。日曜日。正午。勇者召喚の時間まであと三時間。
安部明葉メールを受け取った。
送り主は新見光。
明葉から送ったメールの返信だった。
昨日新見さんとの接触を引き受けて、まずはメールを送ってみようということになったのだ。
迷惑メールと間違われないように件名に「安部明葉です」と入れて。
この間言われたことについて自分なりに考えていること。
薙高を受けようかどうしようか迷っていること。
仁ノ宮さんを心配していること。
一度会ってお話ししたいこと。
なるべく簡潔にまとめて。
三回読み返して。
送信した。
返事が来たのは五分後である。
「いつもお世話になっております。メールの件了解しました。今週火曜午後四時から一時間時間とれます。場所は新宿駅南口前のスターバックスでどうでしょうか。ご一考よろしくお願いします」
五分で書いたにしては長いような、でも書いたのが新見光だと言うなら短いようなメールだった。
火曜日。授業が終わるのが午後三時。
部活はなくて午後四時に新宿なら間に合う計算だ。
しかし。
明葉はメールを返信する。
「そのお時間ですと私制服のままとなりますが、それでも大丈夫でしょうか?」
返信は十五分後に来た。
「私服でお願いします。できるだけ目立たない格好で。時間は午後四時半でどうでしょうか?」
それならなんとかなる。
明葉はすぐに返信した。
「了解です。ところで今はどちらにお出でですか?」
「宮城です。それでは火曜日に」
忙しいんだなあ。
全国ツアーである。
前会ったときは九州に向かっていた。あれから二週間。今度は東北である。
明葉もちょっと調べたが、クラシックで全国ツアーなんて珍しいのだ。滅多にないといっても過言ではない。そのチケットが完売なんだから仁ノ宮愛の人気は本物である。そりゃ本業に専念して欲しかろう。
うーんと明葉は首を捻った。
どうして仁ノ宮さんは異世界になんて行こうと思ったのだろうか。此方での彼女は全てを手に入れているように明葉には思える。無論満たされない何かがあったのかもしれないけれども、それでもそんなこと鼻で笑って前へと進むのが安部明葉の知る仁ノ宮愛だ。
異世界? 知ったこっちゃ無いわね。私はこの世の全てを手に入れてみせる!
――確証はないが多分そんな感じだ。
何があったのだろうか。
なんだかよろしくない感じである。
とそこで。
また、メールが着信する。
さて、なにか変更でもあったかと件名を見ると。
「仁ノ宮愛だけど」
不機嫌そうな文字が踊っていた。
事態は意外な方向へ……?




