「うーん。そうですね。ちょっと真面目な話をしましょうか」
魔法鉄鋼王国にも事情があるという話です
「なるほどなるほど。それで薙高を受けようと思ったわけですか」
五月二十六日。土曜日。午後三時。勇者召喚の時間。
明葉は魔法鉄鋼王国先端技術大臣室にいた。
一応。
受験については言っておいた方が良いだろうと思ったのだ。
受験が本格化すればこっちには来られなくなるかもしれない。
それを言わずに勇者を続けることはやはり不誠実だろう。――無論、止めてほしかったというのも無くはなかった。
中学二年生。まだ明葉は迷っていたし、異世界でもなんでも必要だと言ってくれるなら。
そんな気持ちもあったのだ。
しかし。
「良いことではないですか。是非頑張ってください」
公爵はあっさりと許可を出した。
「い、良いんですか?」
流石にこの展開は予想外だった。
もっと引き止められるかと思ったのに。
もはや明葉などもうこの世界には必要ないのだろうか。
「うーん。そうですね。ちょっと真面目な話をしましょうか」
「真面目な話ですか」
「そうです。明葉さんも薄々感づいているかも知れませんけど現在先端技術省で一番問題になっているのが――『魔法が使える勇者』の件なんですよ」
明葉は無言で頷いた。
流石にそれくらいは想像がつく。
勇者界にとっても魔法が使える人間の出現は大ニュースだろう。
「そこで、我々は仁ノ宮愛のマネージャーである新見光氏に接触したいと考えています。出来ればこちら側に召喚したい」
「それは……私に勇者をやめろって意味ですか」
「勘違いしないでいただきたい」
公爵はゆるりと首を降った。
「魔法鉄鋼王国の勇者はあなたが望む限り安部明葉です。何か不幸なすれ違いが起こらない限りは。今回はそれとは別に召喚してみようという話ですよ」
「どうして、そんなことを?」
「仁ノ宮愛の血縁を召喚することで魔法の使用に関する遺伝的関連を調べたいのですよ。仁ノ宮愛の血縁である新見光には仁ノ宮愛同様魔法を使える可能性があります。それを確かめるために一度こちらにいらしていただきたい、と我々は考えています」
「新見さんが、魔法使い……?」
呆然と呟く明葉に公爵は言い聞かせるように言う。
「可能性は低いと考えていますよ。何せ再従兄妹です。魔法が使えるということが遺伝的形質だとして仁ノ宮愛、新見光両名に遺伝するには二人の曾祖父さまか曾祖母さまの代に因子を持った方がいないといけない訳ですから」
「そうじゃないと思ってるんですか?」
ふう、公爵はため息をついて頭を押さえた。
「先入観は禁物なのですけど、もし遺伝するとして彼女は第一世代か第二世代だと思いますね。第十世代とかだと流石にいままでの勇者が全員魔法を使えなかったことに説明がつきません」
だから、ただの確認作業で終わるはずなのですが。
公爵はそう言う。
その顔には「そうじゃないとかマジ勘弁なんですけど」と書いてあった。
空気を読むまでもない。
「……まあ、それを差し引いても仁ノ宮愛の幼少期の話とか今後の方針とか、当人以外の視点からの情報が欲しいんですよね。そうなると候補は一人しかない訳でして」
そしてそれは向こうも同じはず。
そう言って公爵は明葉に人差し指を突き付けた。
「新見氏も知りたいはずなんです。大事なピアニストが言い出した『異世界』のことを。それも出来れば当人以外の口から。そしてそうなると――候補は一人しかいない」
あなたですよ。
突き付けた人差し指をそのままに公爵は言う。
名探偵を前にした犯人の気分であった。
「新見氏はあなたに接触してくるはずなのです。おそらくツアーが終わった辺りでしょうが」
突き付けた指をくいっと下ろして。
名探偵ディルクは自らの推理を語る。
「その時に、やはりなにかこう『あなたのお陰で薙高に受ける決心がつきました』的なね、そういうフレーズがあると話も広がりやすいし頼み事もやり易いかと」
「えーと、上手くその流れでこっちに来て欲しいと言えば良いんですか」
「そうですね。出来れば新見氏に『ちょっとできる子』だと思っていただければ。多少なりともね、興味を持ってもらえれば良いなと」
「難易度高いです……」
明葉しょぼぼぼん。
「上手くいったら陛下に会わせてあげますよ。大人しく慰められてください」
「……」
なんだろうか。失敗以前に失恋前提なのだろうか。いや、無論新見さんが無類の女子中学生好きでも困るのだが。
「というわけでして。勇者安部明葉に業務を依頼します。内容は新見光氏との接触。報酬は陛下との会談です。お引き受けしていただけますか?」
色々と思うところはある。
難易度的にもかなり難しい。
上手く事を進めるにはかなりの努力が必要だろう。
でも、それでグレイのレンズのあの人に会えるなら。
明葉の答えなんて決まっているのだ。
「分かりました。お引き受けいたします」
さて、上手く接触できるでしょうか……?




