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『俺はお前が努力する所が見たい』

ついに志望校が決定します

魔法鉄鋼王国勇者にして王妹安部明葉は美術部員である。

異世界でどういう地位に就いていようとそんなことには関係なく安部明葉は中学二年生であった。

五月二十日。日曜日。午後八時。

部活ではそろそろコンクールに応募する絵を描け、クラスではそろそろ志望校を決めろと先生方のプレッシャーは容赦なかった。

現実はかくも厳しいのである。

それに。

『俺はお前が努力する所が見たい』

その言葉は明葉の心に矢のように突き刺さっていた。

あるいはこれが初恋かとスケッチブックの上で動かしていた手を止めて明葉は思う。

描かれていたのはグレイのレンズの男。

既に何枚となく、具体的にはスケッチブック一冊分描き潰していた。

クロッキーの速さと正確さには自信がある明葉にしても異常なペースであった。

努力。

明葉は賢い方ではないがそれでも彼が相当な努力をしてきたことは分かる。

七年前。彼は二十歳だった。

肉親とはいえ小学生一人引き取れたのだから学生ではないだろう。

恐らく高卒で社会人。

進学しなかった理由は成績が不良だったのか素行に問題があったのか。

なんとなく明葉は両方じゃないかと思っていた。

時折見せる素の部分の彼はそういう人間であるような気がした。

逆に言えば普段の彼はそうではない。優秀で忠実で知的な右腕に相応しい人物だ。

きっと独学で物凄く勉強したことだろう。

それもマネージャーをやりながら。

ましてや仁ノ宮愛は時計も読めないのだ。

マネジメントはどれ程大変だったろう。

学業の大切さを、努力の大切さをそこで痛感したのに違いないのだ。

ぬくぬくと別の世界で遊んでいる明葉達に一言言いたくなっても仕方ない。

また一枚、グレイのレンズの男を描き上げて明葉はパタリとスケッチブックを閉じた。

何かが変わるのかもしれなかった。


翌日。五月二十一日。月曜日。放課後。

明葉は進路資料室にいた。

普通の教室の半分のスペースに高校のパンフレットや受験案内がポツポツと置いてある。生徒、ましてや進級したばかりの二年生が滅多に近づかない場所だ。

今日も明葉の他に人影はない。

これ幸いと受験案内をとってめくってみる。

お目当てのページはすぐに見つかった。

私立薙高等学校。

安部家から通学圏内にある中で最も入試偏差値の高い高校である。

その入試偏差値は驚きの八十二。

都内有数、いや全国屈指の進学校と言っても過言ではない。

努力という言葉が寒気がするほどよく似合う高校だ。

安部明葉の写真記憶はペーパーテストに強い。

ただ暗記した単語を書き連ねればいいと言うのなら偏差値の高さなど問題にならない。

しかし、薙高は違う。

暗記で解ける問題は国語の漢字問題十点分だけ。

後は全てが論述問題ということで全国的に有名なのだ。

必要なのは知識量と論理的思考力。

本当の頭の良さ、深く考える力がそこでは問われる。

知識量だけでは太刀打ち出来ない。

間違いなく明葉は今合格圏外にいる。

それでも。

きっと新見さんは薙高を意識して「努力する所が見たい」といったのだろうと確信できる理由があった。

私立薙高等学校クイズ研究会。

通称薙高Q研。

名門である。

東大生や大学教授、一流文化人に混じってクイズ番組に出場し優勝をかっさらうその勇姿を明葉も目にしたことがあった。

受験案内にも活発な部活として紹介されている。

新クイズ女王安部明葉。

あのグレイのレンズの男は三割でなれるといったのだ。

十回やったら三回なれると。

……本当だろうか。

本当になれるのだろうか。

どんな形であれ明葉が一番になんて。


「なんだ。安部、薙高受けるのか?」


背後から声がした。

振り返る。

――進路指導担当の高橋先生が明葉の手元を覗き込んでいた。

受験案内。開かれたページは薙高。


バレた。


とか言いつつ色々迷っている様子。

なお薙高は架空の高校であり実在の人物・団体とは何の関係もありません

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