『――必ず俺は二つの世界を繋いでみせる』
閑話です。ちょっと召喚についての説明回が欲しかったので。
勇者の器とは、何をするのか。
勇者の精神が器に入り込んでいる間器の精神はどこにあるのか。
それは各国それぞれの召喚事情によって違うが、魔法鉄鋼王国では勇者の精神が器に入り込んでいる間器の精神は勇者に入り込んでいる。
この当たりの詳しい仕組みは最高機密に属するのでおいそれとは言えないが、ざっくり言ってしまえば『入れ替わっている』感じである。
ゆえに器には召喚師の補佐として召喚魔法の安定に努めるとともに勇者界の物事について調査してくることが求められる。
主には歴史、世界情勢。
「今、勇者界で何が起こっているのか」について調査してくる。
情報ソースは、新聞、雑誌、テレビ等。
ネットはその双方向性から勇者の社会的安全が守られないとして今の所禁止されている。
五月十九日。土曜日。午後三時。
安部家のリビングの床の上で江藤命はゆっくりと目を開けた。
そのままゆっくりと深呼吸。
「……異常なし」
召喚が成功していることを確認してリビングのソファーの上に移動する。
三人は座れるんじゃないかという大きなソファー。
江藤家ではまずお目にかかれない高級品だ。
器の醍醐味は勇者界の食べ物にあると言われている。
美食の限りを尽くした勇者界の食品類。
それを任務中に限り器は勇者の体で味わうことができる。
――勇者が非飲食型でない場合の話だが。
でもまあ。
こんな豪華なソファーに座れるだけでも十分に元は取れると命は思う。
広々したリビング。
ゆったりしたソファー。
――別世界に来たとしみじみと思う。
命はソファーの前のローテーブルから新聞を取り上げる。
新聞!
これもまたこの世界の技術の粋だ。
細かく色鮮やかな印刷。
ワクワクする連載小説。
知的なブックレビュー。
そういった娯楽目的のものは元より最新の社会情勢が解説付きで載っている。
これを隅から隅まで読み込むのが命の仕事であり、楽しみだ。
正直、こんな楽しい仕事はないと思っている。
勇者様はいつも前回召喚されてからの間の新聞を全てローテーブルの上に置いていって下さる。
ありがたいことだ。
さて、早く目を通さねば。
速読には自信があるが、あまりのんびりしている時間はない。
早速命は新聞を捲った。
「御法川幸也」
その五文字が命の視界に飛び込んでくる。
大きな記事ではない。
いわゆるベタ記事と呼ばれる小さな記事だ。
それでも。
その記事に。
命のの視線は釘付けになる。
心臓を鷲掴みにされたような気分になる。
15年前。
命が生まれた日。
まだ魔法界が乱世だった頃。
その時召喚された命の名付け親が御法川幸也だった。
魔法鉄鋼王国『物理の勇者』。
彼は契約終了の際言ったという。
『――必ず俺は二つの世界を繋いでみせる』
命は記事を読む。
小さな小さなその記事を。
『帝大の御法川幸也准教授、転移実験成功』
――そう遠くない未来大きな火種に育つその記事を。
少し、SFチックな話になってきました。
御法川准教授。忘れた頃にまた出てくる予定です。




