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「――明日何ができるかに比べたらね」

「……本当にあの勇者に召喚するだけの価値があるのですか?」

「発言を許した覚えはありませんよ」

「技術的な話をしています」

「……聞きましょう」

先端技術大臣室。

勇者はもう元の世界に戻っている。

部屋にいるのは三人。

召喚師、江藤龍えとうりゅう

器、江藤命えとうめい

先端技術大臣、ディルク・シュンペイター。

本来、大臣にして公爵たるディルク・シュンペイターに平民にして宮廷魔法師たる江藤龍が口をきくことはできない。

しかし、こと魔法については別だ。

三十年前七国で初めて勇者召喚に成功し七国唯一漢字の姓名を認められた江藤一族。

魔法技術においては七国で右に出るものなどいない。

技術的な話に限るなら――例え、国王陛下だろうと無視はさせない自信が龍にはあった。

「そもそも安部明葉の召喚可能時間は三時間と短い。まして、何か我が国にとって有益な技術なり知識なりを持ってる訳ではないでしょう」

「……つまり、安部明葉の三時間以上の召喚は技術的に不可能だと」

「安全を度外視すれば可能ではありますよ。その日が安部明葉の命日になってもおかしくないですが」

安部明葉は非飲食・非休息型の勇者だ。

召喚されたままでは物を食べても消化吸収が出来ないし、いくら休んでも体力が回復しない。

三時間、というのはその状態で活動できる最大時間。

伸ばせば命に関わる。

「ふむ」

公爵は、笑っている。

にこにこと朗らかに。

しかし。

目だけが笑っていない。

凍りついた政治家の目が龍を見ていた。

「勘違い、してませんか?」

「……何か?」

「それをなんとかするのが――君たちの仕事ですよ?」

にいっと。

悪魔のように口角をつり上げて公爵は言う。

「あの勇者に価値があるのかという話でしたね。言いましょう――江藤蓮を超える魔法使いがそれで現れるのなら安い物だと」

「「……っ!」」

それはまさに悪魔の囁きだった。

江藤蓮。

七国最高の魔法使い。

それを超える。

それは七国中の魔法使いが一度は目指し、そして挫折する夢。

「超えて貰わねば困るのですよ。江藤蓮の名声にすがって江藤一族を名乗るような魔法使いに用はない」

公爵の目は本気だった。

それを新鮮な驚きを持って龍は見る。

初めて、だった。

江藤一族以上であることを求められたのは。

「これは勇者召喚なのですよ。魔法技術開発の一つの最先端なのです。既存の技術が不可能と言ったくらいで投げ出していいと思っているんですか?」

身分が違えど、役職が違えど、その階級に天と地ほどの差があろうと。

いままで龍はそれになんの重圧も感じていなかった。

自分は誇り高き最高の魔法使い江藤一族の魔法使い。

その誇りが江藤龍を支えていた。

しかし。

今、龍は公爵に圧倒されていた。

なめていた。

所詮は何の技術もない王子さまなのだろうと。

とんでもない。

そこにいるのは数多の勇者と渡り合ってきた歴戦の勇士だった。

先端技術大臣ディルク・シュンペイター。

まさしく技術の最先端を司るもののその片翼。

最高の魔法使い江藤蓮を造り上げた男。

「超えろと言うのですか――江藤蓮を」

「それぐらい野心的でなければ勇者召喚とは言えない。新たなる時代を、新たなる歴史を刻めなければ勇者召喚とは言えない。――いつまで、蓮君の背後に隠れているつもりです?」

悠然と公爵は挑発する。

憎らしいほど余裕綽々に。

「……ほ、本気ですか?」

震える声で命が叫んだ。

無理もない。龍は一人嘆息した。江藤に属する人間にとって当主江藤蓮の絶対性は骨身に刻み込まれている。

特に命は江藤蓮の直系たる長女である。

その感情はもはや畏怖と言っても過言ではない。

「人は育ててこそですよ。勇者だろうと魔法使いだろうと。初めから偉大であった勇者も魔法使いも存在しません。勇者召喚とは――育てることです」

何、案じることはありませんよ。

いっそ朗らかに公爵は言う。

「今日何ができるかなんて大した意味はありませんよ――明日何ができるかに比べたらね」


蓮君は一族の中でも恐れられています。

戦闘経験も多いし殺害人数も多いので。


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