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「……良かったら、仲良くしてあげてください」

仁ノ宮愛。全国ツアー中である。

よって正直そこまで時間に余裕はない。

それはマネージャーである新見光も変わらない。

今日はテレビ出演のため東京に戻ってきたが、今日の夜には飛行機で九州に飛ばねばならないのだそうだ。

「土壇場になってきっとあなたが来るはずだから時間とっといてといわれた時はまさかと思ったんですが」

それでも、急遽関係各所に連絡し無理矢理に時間を作ったのだそうだ。

「愛の勘は当たりますから」

黒衣の男、新見光はそう言って苦笑した。

「……読まれてましたか」

空気も思考もまるっとお見通しだった訳だ。

流石は天才。一枚も二枚も上手である。

「……良かったら、仲良くしてあげてください」

「え、そんな恐れ多い」

新見さんは苦笑する。

明葉はバックミラー越しにそれを見ていた。

向こうからは明葉の顔が見えているのだろう。

鏡一枚隔てて二人は会話する。

「あの子は一人では生きられませんから」

「どういうことですか?」

「愛について調べたのならご存知ありませんか。――あの子の学習障害について」

明葉はバックミラーに向かって頷いた。

数学に関する学習障害。

仁ノ宮愛はそれを隠していない。とある雑誌の対談でそれを公表した。天才仁ノ宮愛は一桁の足し算にすら難儀するのだと。

時計もカレンダーも上手くは読めないのだと。

支えてくれる人がいなければ働くことは難しいのだと。

「それをカバーしようと働いてばかりでしたから。あまり業界外の友人が居なくて」

出来れば、当たり前の女の子の友人ができて欲しいと常々思っていた、とハンドル切りながら新見さんは話す。

少しでも学校の勉強に興味を持ってくれればと。

「……必要ですか。学校の勉強」

「やってることがクラシックですから。やはりある程度の教養は必要とされます。アイドルじゃないんだから頭カラッポじゃ相手にされません」

新見さんはそこで重いため息をついた。

「……正直、別の世界で遊ぶよりこっちの世界の常識を身につけて欲しい、と切に思います」

わからないからと逃げてばかりではますますわからなくなるだけ。

やりたいことに才能があるからといってそれだけ努力してれば良い訳ではない。

淡々と、新見さんはそう言葉紡ぐ。

「私だって、そんな得意じゃないです」

「なら」

赤信号。

ブレーキを踏んで車を止めた新見さんは振り返った。

鏡越しでない新見さんの顔。

そこにはお昼に見たあの笑顔が浮かんでいて。

そうしてグレイのレンズの奥で彼は言うのだ。


「今から得意になれ。俺はお前が努力する所が見てみたい」


六都市ぐらいをまわる予定です。

既にチケットは完売。

ネットオークションでは結構いい値が付いています

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