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もう、ここまでやればオッケーじゃねと思わなくもない。

さて。

五月十四日。月曜日。午後三時。

人生初の出待ちとなった安部明葉はテレビ局前を彷徨いていた。

正面玄関である。

情報収集の結果、仁ノ宮愛は基本正面玄関から出入りするらしいことが分かったのである。

しかし、だからといってファンに手を振るでも笑顔を振り撒くでもなんでもなくただ車から降りて歩いていって入る、らしい。

それゆえ。

ファンも整列してきっかり四十五度の礼をしてお見送りするのが通例であるらしい。

しかし、そこは安部明葉。

そんな空気は全くもって読めなかった。

明葉はトコトコ正面玄関まで歩いて警備員さんに「入館証のない方は入館できません」といわれてまたトコトコと帰ってきた。

正直。

もう、ここまでやればオッケーじゃねと思わなくもない。

いや、まあ。

さすがにこれって出待ちじゃないよねというのはわかるのだけれど、そもそも「会えればラッキー」ぐらいのテンションで起こしたアクション。

とりあえず仁ノ宮さんがくるのをまって、遠目に姿を見たら何か美味しいものでも食べて帰ろうかとむしろ思考は美味しいものの方に流れ出していた。

しかし、そうは問屋がおろさなかった。

仁ノ宮愛。

生き馬の目を抜く芸能界をたくましく泳ぐ彼女は明葉とは違う。

強かに賢くて、冷ややかに人を見る目があり、小悪魔に空気が読める。

その事を、安部明葉はもう少し理解しておくべきだった。

あるいは。

無意識には分かっていたのかもしれない。

何となく、当人にも分からない意識の奥底のほうで「ここに来ればナニカが起こる」、そんな確信があったのかもしれない。

理解しておくべきだったのは何も出来ない勇者のセレンディピティの方だったのか。

ともあれ。

正面玄関離れて駐車場方向。

安部明葉は腕を捕まれた。


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