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「というわけで、押し掛けてみようと思います」

「というわけで、押し掛けてみようと思います」

五月十三日。日曜日。

それが安部明葉の第一声であった。

今日も元気に全力暴走。

つまりは平常運転であった。

「ふむ、つまり連絡がとれそうもないから本人がいるところに直接行ってみようということですか……」

なるほどねえ、となんでもないように呟く公爵。

――いや、もう、ホント政治家って怖い。


勇者同士の勇者界での接触。

それは一種の禁忌である。

少なくとも喚び出している側にとって都合の良いことではない。

一国対一個人。

その明確なる格差があってこそ安心して勇者を喚び出せるというもので。

自分達にとって都合の良いことだけを吹き込む。

自分達の都合の良い勇者を作る。

そういうことは過去に確かにあった手法で、今でも多かれ少なかれやっていることではあるし――結局のところ勇者召喚とはそういうものだと言えなくもない。

勇者同士の接触はそれを阻害する。

異なる視点から見た魔法界の姿は間違いなく勇者のスタンスを変えていく。

だからこその禁忌である。


――誠実は最強の盾。誠意は最強の剣。

かつて公爵はそう言ったのだったか。


「……良くなかった?」

不安そうな勇者の声が龍を現実に呼び戻す。

公爵は正面から勇者の揺れる瞳を見つめていた。


「構いませんよ」


穏やかな笑顔だった。

慈愛溢れるといっても良いのかもしれない。

大人が子供に対するときの笑顔。

愚かで可愛らしいナニカを見るときの笑顔。


「過去に勇者同士の接触を禁忌とした時期もありましたが、今この状況で気にすることではありません。彼女にこちらに来る意思がないと言うならこちらから仕掛けてみるのも一興でしょう。」

にこにこと朗らかに笑う公爵。

いやもう、政治家ってホント怖い。


「……会えるかどうかは分からないんだけどね。明日音楽番組の収録があるからテレビ局の前で出待ちしてみようかと思ったの」

「出待ち! 懐かしいですねえよく前の勇者様がやってましたよ。どこのテレビ局です?」

「ええと……。赤坂の」

「おおっ! ……ふむ、あそこは穴場がありましてね。ふふふ、ちょっと耳を貸してください」

ごにょごにょごにょ。

「………うん。分かった。試してみるね」

――なんでこの人は行ったこともない異世界のアイドルの出待ち情報に詳しいんだろうか?

魔法鉄鋼王国先端技術大臣ディルク・シュンペイター。御年四十五歳である。

「えっと。ホントに良いの? 嫌なら行ってくれれば……」

チラリと龍を見る勇者。

ああ、俺は多分ものすごい不愉快そうな顔をしている。空気なんざ読むまでもない。

「構いませんよ」

しかし、公爵は言うのだ。

「まあ、なんというかその辺りまででしたら上の方にもコンセンサスとってあるんで。やはり、時代と言うものを考えた場合その辺りに関してある程度の方針転換はもうマストだろうと。無論これ以上となるとほうれんそうを徹底していただく必要があるとはいえ、時流を無視していくことは出来ないですから。できればこちらの方でイニシアチブ取ってインセンティブの方提示していきたいなと」

「??? いにしあちぶ???? いんせんてぃぶ????」

もはや勇者にすら分からない勇者語を立て板に水と話す公爵。

勇者召喚三十年のキャリアは伊達ではなかった。

「ふむ。つまり国王陛下並びに関係者にはもう許可をとってあるということですね。昨今の情報通信技術や交通網の著しい発展を考えれば勇者間の物理的精神的接触を禁止することはコストパフォーマンス的に許容範囲にないだろうと」

「……????」

「????」

「……そうですね。例えば、勇者になっていただく条件として『インターネット、メール、携帯電話、スマートフォン、SNSの利用禁止並びに東京都外への移動制限』というものがあったら誰も勇者になんかなってくれないでしょう? つまりこれが『負のインセンティブ』というものなんですが、それだけでなく勇者様の方に積極的に来たいと思わせる何か、これが『正のインセンティブ』なのですけど、を積極的主体的に打ち出していく必要があるなあという話ですね」

ふう。

唐突に公爵はため息をついて窓の方を見た。

「三十年前。インターネットも携帯電話もなかったあの時代というのはもう、あなたにとっては教科書の中の歴史なんでしょうね……」

あの頃は、他の勇者さんに会わないでくださいなんて簡単なことだったんですけど。

時代は変わりましたねえ。

「……ええっと昔は連絡とるの大変だったから禁止してたけど今は簡単だから良いよってこと?」

「そうですね。もはや接触を禁止すること自体非現実的だろうと言うことですね」

「つまりオッケーなんだ」

「オッケーです」

そういうことで。

安部明葉。

人生初の出待ちとなった。


公爵が難しい言葉を使います。

横文字をあそこまで使いこなせるのは公爵だけです。

さすが公爵。

さて、テレビ局。そこで運命の出会いが……?

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