「元、だ。間違えんな」
番外編の閑話です。
……よお」
「団長殿!」
びしりと背筋を伸ばして敬礼するかつての部下を眺めて龍は苦笑した。
「元、だ。間違えんな」
ここは魔法鉄鋼王国王宮騎士団修練場。
江藤龍。ここに来るのは三週間ぶりであった。
職を辞した以上たびたび訪れる訳にもいかず。
後任となった甥っ子の邪魔をするわけにもいかず。
勝手の違う召喚師業務に思いの外疲弊してしまったり。
なんやかんやあってしばらく足が遠退いていた訳だが。
それでも、いまだにかつての部下がこうして慕ってくれているのは悪い気がしない。
「どうだ? 真の調子は」
「ご立派です」
「さすがは江藤一族次期当主であらせられる」
「若年故不安の声も有りましたが堂々たる勤めぶりです」
江藤真。
十五才。
江藤一族現当主江藤蓮の長男にして。
現騎士団長である。
江藤一族とは七国圏内において最初に勇者召喚に成功した、七国圏内において唯一漢字による姓名を名乗る一族である。
間違いなく七国圏内最高の魔法使い集団であり、その高い技術力は七国全域に轟いている。
そして、そんな江藤一族は技術吏官だ。
国内の魔法技術を統括する宮廷魔法師の職に就きそこから各部署に派遣される。
騎士団とて例外ではない。
身分として平民階級である江藤一族が出仕するにはこういう手を使うしかない、というのは建前で。
本音を言ってしまえば怖いのだ。
地位を、身分を、発言権を、権力を、江藤一族に与えることに対する圧倒的な恐怖である。
技術吏官が発言出来ることは技術に関することのみ。
政治的な発言権は無いに等しい。
例えどんな無謀な軍略を示されてもそれに反対することはできない。
ただ、実行するのみである。
そう言った意味ではあの甥っ子は――。
「真はまだいるか?」
「いえ、先程食堂の方に。お呼びいたしますか?」
「いや、別に良い」
別に会いたかった、訳でもなし。
「じゃ、また来るわ」
そのまま踵を返してヒラリと手を振った。
「はい、ご来訪の方お伝えしておきます!」
「ご足労ありがとうございます!」
そんな声を背にして、歩き出す。
行き先は食堂ではない。
先端技術大臣室――である。
思うところがあった。
一言で言ってしまえばそれだけだろう。
江藤一族は参政権を持たない一族だ。
それ故に、政治にたいして無知である。
逆らうものに容赦は要らない。
しかし、逆らう声に耳を塞いではならない。
理解した上で棄却しろ。
敬意をもって踏み潰せ。
先日の公爵の言葉をまとめるならそう言うことだろう。
かつて公爵は勇者を「善意と笑顔で牙を剥く」と評した。
けれど、その牙を受ける覚悟などとうに決めていたのだろう。
そしてその上で。
勇者を傷つける覚悟も、また。
傷付け傷つけられたその果てに確かに道はあると信じて。
そしてそれが政治なのだ。
あるいは――それこそが勇者召喚なのか。
無論召喚師は召喚するのみである。
勇者との交渉は先端技術大臣が行う。
それでも、召喚は江藤一族の業務の中では最も政治よりの業務である。
その、一端を見せられたというところか。
あるいは。
守られていた、のかもしれない。
江藤一族は参政権を与えられないことで。
技術者のレッテルを貼られることで。
「江藤龍。参上いたしました」
重厚感溢れる扉の前で龍は言う。
それが政治の重みなのかもしれなかった。
まだ、誰が人気あるとか分からないので龍君が主人公です。
ちなみに龍君既婚者です。子供が二人います。二十歳です。




