「魔法説。」
かなり短め。法王との対談編はここで終わりですが第二章はまだ少し続きます
「結論から言ってしまえば不可能――誰一人成功しなかった訳です」
何事もなかったようにそう言って法王はぱしんと手帳を閉じた。
刻まれた叡知に対してあまりにも軽いその音が虚ろに響いた。
「どうでしょう。勇者様。我々を見て『汚い』とか『不潔』とか思いますか?」
唐突に。
そんなことを聞く法王。
黙って首を振る明葉。
そんなことはない。
どこもかしこも抗菌防臭されているとは思わない。
が、少なくとも明葉は不快に感じたことはない。
いわゆる「中世」並みの衛生観念だったら明葉が勇者になることなどあり得なかっただろう。
「三十年前。勇者がこの世界にやってきてから我々の衛生観念は劇的に進化を遂げました。事実として伝染病の発生件数・死亡者数は劇的に減少しています」
さらに。
そう言って法王は人差し指に歯を立てた。
滴る赤い血が右手を濡らしていき――そして止まった。
見れば右の人差し指には傷一つなく。
「長く続いた戦いによって我々の治癒魔法は飛躍的に進化しました。今では足一本吹き飛んでも再生が可能です」
だから。
「我々は老いも死も克服してもいいはずなのです。しかし、現実はそうではない」
どんなに体に気を付けても。
あらゆる病を治しても。
怪我の全てを癒しても。
その寿命が七十に届くことは稀。
法王はそう言った。
「これについては様々な仮説が立てられています。我々神聖王国で主流なのが環境に原因を求める『環境説』、貴女方魔法鉄鋼王国で主流なのが種としての違いに原因を求める『起源説』、そして彼ら学術科学都市で主流なのが魔法に原因を求める――『魔法説』です」
「魔法説」。
つまりは魔法を使うから寿命が短いのだという考え方。
学術科学都市はそれを信仰する。
故に。
彼らは魔法を拒絶する。
彼らは魔法使いを差別する。
彼らは科学を信仰する。
それこそが人のあるべき形だと。
「故に。魔法を使う勇者とは彼らにとっての正しき世界たる勇者界を汚染する存在。なにもアクションを起こさないとは考えづらいのですよ」
法王はそう言った。




