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「あれが我々が危惧している彼女の敵――学術科学都市です」

結局。

手を振り払ったら法王は椅子に座った。

明葉の向かい。なにも挟まず対面する。

もちろん法王の方がいい椅子に座っている。

これで服装も法王の方が豪華なんだから、もうまるっきり国王と使用人みたいな感じだった。

だから龍があんなに地味地味言ってたんだなと思って全ては後の祭りで。

なんだか。

威勢良く啖呵きったはいいけれど、なんかこっちからは話しかけづらい雰囲気なってしまった。

仕方なく黙る明葉。

当然そうなれば法王の方から話しかけそうなものなのだけれど。

なぜか微笑したままの法王は口を開かなくて。

そういうわけで両者無言のままたっぷり五分が経過していた。

「……いい子ですね」

最初に口を開いたのは法王の方だった。

当たり前と言えば当たり前。

だけど。

五分間全く変わらない微笑を浮かべているのが明葉には怖かった。

「貴女にならお願いしても大丈夫そうですね。実は今日お呼び立てしたのは我が国の勇者仁ノ宮愛のことをお願いしたく思いまして」

今の無言の間に何をみてそう思ったんだろうと明葉は思う。

魔法でも使ったのだろうか。

油断できない。

「ご存じの通り愛は現在確認されている限りでは勇者界でただ一人の魔法使いですから。」

法王は表情を変えない。

明葉が無言のままなのを気にした様子もない。

明葉はぐっと膝の上の両手を握りしめる。

「何かありました際はお願いします。相談にのってあげてください」

「何か、あると思ってるんですか」

さすがにそれは見過ごせなかった。

念のためで国家元首が他国までやってくると思うほど明葉も呑気ではない。

あるのだろう。彼が動くに足る何かが。

法王は立ち上がる。

かたりとも音はしない。

法王は歩き出す。

足音はしない。

無粋な雑音など寄り付かせずに白いスーツの男は窓辺に歩み寄った。

窓辺。

ガラスもなにもなく大きく開口された窓。

そこから見えるのは神聖王国――ではない。

神聖王国のある南向きの窓ではない。

向きは西。

見えるのは――城壁である。

その城壁を背に背負って法王は振り返る。


「あれが我々が危惧している彼女の敵――学術科学都市です」


その微笑は最後まで揺らがない。


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