「フランって呼んでくださいね」
五月十二日。土曜日。
神聖王国との会談の日だ。
会談は王宮ではなく神聖王国との国境付近の砦で行われる。
国境付近。
正確には魔法鉄鋼王国沃野領第七砦。
ギリギリ魔法鉄鋼王国内であるものの、神聖王国まで三十分もかからないという立地。
窓から目を凝らせばそこにあるのは神聖王国で。
それが、明葉が初めて見る『外国』の姿だった。
「……」
正直。
沃野領と何も変わらないと思う。
辺境だからなのかも知れないが、少なくとも殺し合うに足る違いは見受けられなかった。
そんな違いが、世界に存在して良いかどうかわからなかったけど。
「……来るぞ。席につけ」
本来は。
一国の王に対して座ったままというのはあり得ない。
しかし、そこは勇者。
勇者の安全と意向は礼儀礼節に優先する。
明葉は大人しく座って待つ。
ドアが開いた。
――てっきり、白いローブの魔法使いが入って来るのだろうと思っていた。
流石に一国の王が護衛もつけずに外国にやって来たりはしないだろうと。
そして、そんな予想はあっさりと裏切られる。
――光沢あるシルクの純白のスーツ。
銀糸を織り込んだ白のネクタイ。
磨きあげられた革靴も染み一つない白。
その隣にどんな美姫がいても霞むほどに、白く白く輝いて。
誰が主役かなど、疑問の余地がない。
余計な取り巻きなど一人も居ない。
余計なパーツなど一欠片もない。
たった一人で彼は完成していた。
文化大国神聖王国のそれは本領発揮だった。
「今日は。僕が神聖王国法王フランシスコです。フランって呼んでくださいね」
そんなことを言って、彼は笑う。
穏和な笑みだと思う。
気さくな口調だと思う。
それだけに作り物めいている思った。
明葉にだって、外国語で気さくに話すのが難しいことぐらいわかるのである。
その気さくで気楽な口調の裏に少なくない努力があるのだろう。
そして、彼はそれを苦労ともなんとも思っていないんだろう。
そんな姿勢は仁ノ宮さんに似ている。
「初めまして。魔法鉄鋼王国勇者安部明葉です」
ぺこり、と頭を下げる。
もっと正しい頭の下げかたが世の中にはあるのだろうけど、生憎とそんなものは知らない。
目に映るのは自分で選んだ灰青色のローブ。
気に入ってはいたのだけど、こうしてみるとマットな質感とあいまってひどくくすんで見えた。
まあ。
明葉の後ろに控える魔術師二人よりは断然ましなのだけれども。
くたっと着古した黒のローブをほつれや破れを気にせず着るのは魔法鉄鋼王国宮廷魔法師の悪習らしい。
二人。
そう、二人である。
江藤龍と――江藤蓮。
魔法鉄鋼王国が誇る最高の魔法使いのお出ましである。




