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『――お兄ちゃんって呼んでも良いですか?』

で、結局。

あの後、どうにも身動きがとれずにらみあっていたところを仁ノ宮愛、安部明葉両名共に保護された。

保護したのは魔法鉄鋼王国第五宮廷魔法師江藤龍。

騎士団長でもある江藤蓮の末弟である。

明葉と愛が連れ拐われてから。

居場所自体はすぐに掴めたのだ。

問題は――どちらの国が保護しにいくかである。

それはもう火花散る展開になったのだ。

基本、和平会談の場で迂闊に魔法なんて使えない。

ましてや神聖王国法王が魔法鉄鋼王国で魔法を使うなんて戦争になってもおかしくはないのだが――勇者のためとあらば話は別で。

自国の勇者を保護しにいくという大義名分の元に探索魔法を行使しようとする神聖王国と敵国に自国を探索させてなるものかと抵抗する魔法鉄鋼王国。

どちらも一歩も譲らず結果として探索は遅々として進まない。

二人の勇者も膠着していたが二つの国もまた膠着していた。

「正直、『あの報酬』がなかったらタイムアップもあり得たと思います」

江藤龍はそう言ってソファに腰を下ろす。

「今にして思えば好手だったのかもしれません」

龍は思い出す。

謁見の間での勇者の一言。


『――お兄ちゃんって呼んでも良いですか?』


その瞬間、勇者安倍明葉に魔法鉄鋼王国王妹殿下としての地位と身分が発生した。

長き勇者召喚の歴史の中で勇者に王族としての地位と身分が発生したのは初めてである。

今回、神聖王国を退けられたのはそれが理由だ。

勇者はどこの国にも属せない。

だけれども

彼女がそう呼ぶ限りゲオルグ三世は彼女の「兄」である。

妹を助けるのに何の遠慮がいるだろうか。



――ここは、先端技術大臣室。

ディルクが普段いる――そして魔法鉄鋼王国において勇者が基本的にいる部屋である。

保護された安部明葉は速やかに勇者界に帰された。

江藤龍はその報告に来たのである。

中にいたのは江藤蓮とディルク・シュンペイター。

先王の末子にして勇者召喚を司る先端科学大臣である公爵、ディルク・シュンペイター。

勇者召喚七国で唯一単独での勇者召喚が可能である『最高の魔法使い』、魔法鉄鋼王国第一宮廷魔法師江藤蓮。

魔法鉄鋼王国で、あるいは勇者召喚七国で、最も勇者に近しい二人だった。

それが揃い踏みしている理由は勿論。

勇者安部明葉からもたらされた衝撃的な事実のためだ。

「魔法を使える勇者ですか……」

どう思うかと視線だけで公爵は江藤蓮に問いかける。

最高の魔法使いとして、魔法技術と理論の最先端にいるものとしてどう思うかと。

「あり得るでしょうね」

あっさりと。

江藤蓮はそういうことを言う。

微動だにしない表情のまま。

淡々とした声音のまま。

「召喚できるとはそういうことです。魔法が使えない者に魔法をかけることは出来ない。魔法

がかけられる以上使えて当然です」

当たり前だと。平然と。

今までの召喚の常識を覆すことを言う。

「しかし、今までは出来なかった訳でしょう?」

「能力的に『使えない』訳ではなく、反魔法が侵入してきた魔法を片っ端から削除しているだけですから。召喚魔法がそうであるようにその削除対象から外れてしまえばいくらでも使えますよ」

ああ、神聖王国の召喚方式ならより起こりやすいでしょうね、とそういう間も眉ひとつ動かさない。

ついてけねえな、と江藤龍はため息をつく。

この冷淡極まりない長兄と一族のなかで一番仲の良いのは自分だという自負はあるのだが、それでも。

こういうときは人間じゃないんじゃないかとすら、思う。

勇者は魔法が使えないというのは勇者召喚における大前提だったはずだ。

だからこそ、勇者を不完全な人間として扱ってきたわけだ。

もし、勇者が自分で好きなときに来られるのだとしたら。

勇者と国家の関係が根底から変わる。

「――だからこそ、神聖王国は和解を申し入れてきたと見るべきなのでしょうね」

このまま敵対関係を取り続けて共倒れになるよりは。

情報を共有して連携した方がましだと判断して。

「奴らの言うことを信じるんですか?」

たまらず江藤龍は口をはさんだ。

きょとんとした二対の目が龍をみる。

「一応確認いたしましたが確かに使っていましたよ」

「何かの詐術だという可能性は?」

その瞬間部屋の温度が五度下がった。

「――神聖王国ごときに俺が騙されるとでも思っているのか」

「思ってません!」

申し訳ございませんでした!

宮廷魔法師の第一位と第五位の差は絶対なのである。

おしめ代えてもらった兄貴に弟が勝てる日は来ないのである。

「とにかく、今までのようにはいきません。勇者安部明葉の処遇を含め検討するということで」

と、そこで。

先端技術大臣は第五宮廷魔法師に目を止めた。

「ふむ」

「……なんでしょう」

「龍君。良かったら召喚師やってみる気はありませんか?」

「はい?」

召喚師。勇者召喚を行う魔法使い。繊細かつ高速な術式展開と長時間に渡り魔法を行使するスタミナが求められる。

肉体強化をメインに行う騎士である江藤龍にとっては完全に専門外である。

「こういう状況ですから蓮君にはこの件に掛かりきりになって貰おうと思うのですよ。その間代わりに召喚してもらえませんか?」

形だけは。

形だけは疑問形である。

しかし、第五宮廷魔法師に先端技術大臣の頼みを断る権利はないのである。

「……あの、騎士団の方は」

「ああ、そこは真君に入ってもらいますから」

「龍」

いつの間にか蓮が背後に立っていて。一言。

「やれ」


江藤龍。召喚師に転職決定である。


これにて第一章「召喚と女子会」は終わりになります。

次話からは新章「法王と会談」が始まります。

どうぞよろしくお願いいたします

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