「…………そんなこと、ないのよ?」
「………明葉、ちゃん?」
「はい。今日はお世話になります」
下げた頭をぴょこんとポニーテールが追いかける。
「あらあら……ホントに格好良くなっちゃって」
遠藤さんのお母さんはそう言ってころころ笑った。
雪菜によく似た美人のお母さん。
「さあ、乗って乗って。何か食べて帰りましょうね」
「ありがとうございます」
よく使い込まれたハイブリットカーに明葉と雪菜は乗り込む。
「明日学校行きたいなあ……。みんなの反応が見たい」
「雪菜」
「はーい」
……良いなあ。親子って感じ。
「明葉ちゃん。なんか心境の変化でもあったの?」
「……あ、ちょっと今日は初めて生理来て。もう、終わっちゃったんだなと思って。もう、子供じゃないんだなって。もう、大人にならなくちゃいけないんだなって」
「…………そんなこと、ないのよ?」
雪菜のお母さんは優しく言う。
「これからどんどん大人になっていって戸惑うこともあるかもしれないけど――焦らなくて、良いのよ?」
「もう、十四ですから。来年は受験生ですし」
「……明葉ちゃんのとこご家庭すごく複雑で大変だろうけど、ご両親とはちゃんとお話してる? 今日生理来たことは言った?」
「話してません。話す気もないですし」
ああ、なんでこんなつっけんどんにしか話せないんだろう。
ホントは泣きたいぐらい寂しいのに。
「……ご飯、ここで良い? ごめんね、お赤飯頼めないところで」
「はい、ありがとうございます」
入ったのはかつて時田空と入ったファミリーレストラン。
明葉は野菜雑炊とドリンクバーを頼んだ。
「すいません。ご馳走になって……」
「良いのよ。お祝いしましょ。ケーキ頼むから」
「ありがとうございます」
「明葉、遠慮しなくて良いからね」
そう言う雪菜はミックスグリルハンバーグ。
肉食女子なのだ。
「……ショックだった? 明葉」
「え?」
「ショックな顔してるよ?」
「……うん」
ショックだった。
体の方から急に告げられたタイムリミット。
唐突に終わってしまった子供時代。
世界が、時代が一つ終わってしまった。
「もう、体が待てなくなっちゃったんだね……。お父さん帰ってくるのも。『あの女』と別れるのも」
「『あの女』……?」
「母です。血のつながった」
「……そう」
家族が『家族』になるのを明葉の体は待てなかった。
きっと母は『女』になった明葉を決して許しはしない。
あの人は生まれた時から明葉の中に『女』を見ていた。
自分の地位を脅かす『女』を。
自分が愛した男が溺愛する『女』を。
それが悲劇の始まり。
「明葉……。大丈夫?」
「大丈夫」
「ケーキ食べましょう。今日はおめでとう!!」
雪菜のお母さんが努めて明るく言った。
「おめでと~」
「ありがとうございます」
雪菜のお母さんの優しさに涙が出る。
こんなお母さんがいたら良いのに。
こんな家族がだったら良いのに。
「……明葉」
思わず顔を覆った明葉の背中を雪菜が撫でる。
「明葉!! 今日家に泊まろう!! ほっとけないよ……」
「……そうね。明葉ちゃんさえよかったら、今日は家に泊まる?」
「……ありがとう、ございます。お願い、します……!!」
今日、一人は怖かった。
一人でいるとまた泣いてしまいそうで。
「今日は一緒に寝ようね!!」
「……うん」
雪菜の好意が身に染みた。
お泊り決定。




